ベニチオ・デル・トロ主演の映画「ロープ 戦場の生命線」を映画館で観た。
1995年、内戦が停戦したバルカン半島で住民たちに衛生的な水を提供するNGO団体が、井戸に捨てられた死体を除去するために四苦八苦する様子を通し、戦場における力関係の複雑さを浮き彫りにする。
【満足度 評価】:★★★★☆
紛争地帯にある井戸を舞台にし、その井戸を通して、そこで暮らす村人たち、紛争が起きている民族対立、国連の役割を描き、その上で、平和を願うNGO団体にできることは何かを描いていて、とても面白かった。
そして「戦争も紛争もなくならないんだな」と思うと絶望的な気分になる映画でもあった。
この感想には結末に関するネタバレを含みます。映画をご覧になってからお読みください。
◆DVDで観る:「ロープ 戦場の生命線」
◆ネット配信で観る:「ロープ 戦場の生命線」(字幕版)
◆【映画パンフレット】「ロープ 戦場の生命線」
…(「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」、「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」、「ボーダーライン」「ガーディアンス・オブ・ギャラクシー」など)
〇ティム・ロビンス
…(「デッドマン・ウォーキング」など)
〇オルガ・キュリレンコ
…(「ディバイナー 戦禍に光を求めて」、「スパイ・レジェンド」など)
〇メラニー・ティエリー
〇フェジャ・ストゥカン
〇セルジ・ロペス
2015年製作 スペイン映画
1995年、停戦協定が結ばれたばかりのバルカン半島。
NGO団体「国境なき水と衛生管理団」は、ある小さな村の井戸に投げ捨てられた人間の死体を引き上げる作業をしている最中に、ロープが切れてしまう。
そこで、リーダーのマンブルゥ(ベニチオ・デル・トロ)とビー(ティム・ロビンス)は、近くの村を回ってロープを探しに行くのだが…。
紛争地帯(表面的には停戦中)でのNGO団体の活動の難しさを通して、戦争が国民に与える影響や、様々な利権が絡んだ複雑さを描いた作品。
とても面白い作品だった。
とはいえ、停戦協定が結ばれたはずなのに、空爆は引き続き行われていて、その様子は旧ユーゴスラビア出身のエミール・クストリッツァ監督作「オン・ザ・ミルキー・ロード」でも描かれていた。
そんな状況の中で、NGO団体「国境なき水と衛生管理団」は井戸に落ちた死体を引き上げる作業をしていた。
ところが、たかがロープ一本をなかなか手に入れることができない。
道中には牛の死体に埋め込まれた地雷が置かれ、村にたどり着けば、住民がほぼ全滅状態で人気のない村もあるし、国連に助けを求めてもらちが明かない。
様々な民族が入り混じるこの国では、大人たちの力関係が子供たちにも影響を与え、嫌われた人種の子供たちはカツアゲやいじめに遭う。
その現実を見つめながら、彼らは「命の危険にさらされた国民のために何をすべきか」を問い続けながら作業を続ける。
その活動を通して、紛争地帯でNGOが活動することの難しさ、そして、国連とは一体何のために存在しているのかについて考えさせられる作品だった。
人間は水を飲まなければ生きていけない。
ということは、この映画の舞台のように、上水道が整備されていない山間部の小さな村にとって、村の中心にある井戸は村人たちの「命の源泉」である。
その命の源泉に、死体が投げ込まれ、汚染されてしまったということは、彼らNGO団体がしていることは「村人の命を助ける作業」である。
では、なぜ、そんな貴重な場所に死体が投げ込まれたのか。
それは、その井戸のそばで「水を売っている人々」がいるからである。
「戦争によって金儲けをしたい人たち」が、紛争の混乱に乗じて死体を投げ込み、井戸を使えないようにし、自分たちは貧しい村人たちに水を売って金を巻き上げるのである。
ということは、「この井戸を村人の命」と考えると、そこにいきなり落ちてきた死体は、「戦争ビジネスで儲けたい人々によって引き起こされた紛争」を示していて、その中身は肥大し腐りきり、周辺の命を汚染する。
そして、なんとかしてそれを引き上げようとするロープは、「彼らの命をなんとしても救いたいと願う命綱」なのである。
周辺の村にその「命綱(=解決の糸口)」を探し歩いても見つからず、国連には拒絶され、たどり着いたのは民族浄化によってほとんどの村人が殺された村であり、ようやく見つけたロープは、死体を吊り下げていたものだった。
つまり、そのロープで死体を吊り上げた場合、井戸の汚染除去によって助かる命とは、他の村人たちの犠牲の上に成り立っているものなのである。
実際に、この時、和平条約が結ばれていたにも関わらず、いつまで空爆を続けていたのは国連軍だったのである。
その当時の様子は、前述した「オン・ザ・ミルキー・ロード」でも描かれていた。
この時、国連軍は「平和を維持する」ことを目的でこのバルカン半島に入っていたのに、むしろ、平和を壊し、その裏には「戦争ビジネスで金儲けしたい人たち」の存在が見え隠れしている。
必死で紛争地帯(表向き停戦中)の人々の命を助けようとしても、国連が彼らの目の前で、その苦労を水の泡にしてしまう。
そこに、平和を願うNGOの活動の難しさがある。
井戸の周りに集まってその中を覗き込み、「あの死体をどうやって取り除いて、村人の命を助けようか」と頭を悩ませたところで、村人たちからすれば「所詮、高みの見物」でしかないのである。
結局、目の前でロープを切られてしまい、絶望的な気分になっている彼らが受けた指令は「簡易トイレのつまり除去」だった。
その「たかだか下水のつまり」を治すような、たとえ誰でもできる仕事であっても、その村で簡易トイレを使っている数千人を疫病から救うことができる。
それでも「何もしないよりはまし」なのだ。
そして、その道すがら、彼らが「不当に拘束されている」と通報した捕虜たちが乗った国連軍のバスとすれ違う。
もしかしたら、彼らも「民族浄化されてしまう人々だったかもしれない」と考えれば、多くの命を救ったことになる。
それもまた、「何もしないよりはまし」なのだ。
たとえそれが数人であっても、人々の命を救った日は、彼らにとって「A Perfect Day(素晴らしい一日)」(原題)なのだ。
そのためにNGO団体に入ったのであり、そのために命の危険を顧みず紛争地帯にいるのである。
そう思わないと、絶望して唖然とするような現実がそこにはあるのだ。
この映画の原作は「国境なき医師団」に所属する医師によって書かれたものなのだとか。
唖然とする現実をその目で見た人ならではの、かなり痛烈な皮肉のこもった作品だった。
一体、「平和維持軍」とは何のために存在し、何をするために紛争地帯に入っているのか。
現在、世界中で起きている紛争地帯で、この映画と同じことが起きているのでは…と考えると憂鬱な気分になる作品だった。
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◆【映画パンフレット】「ロープ 戦場の生命線」
1995年、内戦が停戦したバルカン半島で住民たちに衛生的な水を提供するNGO団体が、井戸に捨てられた死体を除去するために四苦八苦する様子を通し、戦場における力関係の複雑さを浮き彫りにする。
【満足度 評価】:★★★★☆
紛争地帯にある井戸を舞台にし、その井戸を通して、そこで暮らす村人たち、紛争が起きている民族対立、国連の役割を描き、その上で、平和を願うNGO団体にできることは何かを描いていて、とても面白かった。
そして「戦争も紛争もなくならないんだな」と思うと絶望的な気分になる映画でもあった。
この感想には結末に関するネタバレを含みます。映画をご覧になってからお読みください。
目次
「ロープ 戦場の生命線」予告編 動画
(原題:A Perfect Day)更新履歴・公開、販売情報
・2018年3月23日 映画館にて観た感想を掲載。
・2019年3月24日 WOWOWでの放送に合わせて加筆・修正。
現在、DVD、ネット配信、共に販売中。
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【映画パンフレット】ロープ 戦場の生命線 監督 フェルナンド・レオン ・デ・アラノア キャスト ベニチオ・デル・トロ, ティム・ロビンス, オルガ・キュリレンコ, メラニー・ティエリ 新品価格 |

キャスト&スタッフ
出演者
〇ベニチオ・デル・トロ…(「ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ」、「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」、「ボーダーライン」「ガーディアンス・オブ・ギャラクシー」など)
〇ティム・ロビンス
…(「デッドマン・ウォーキング」など)
〇オルガ・キュリレンコ
…(「ディバイナー 戦禍に光を求めて」、「スパイ・レジェンド」など)
〇メラニー・ティエリー
…(「天国でまた会おう」など)
〇フェジャ・ストゥカン
〇セルジ・ロペス
監督・脚本・製作
〇フェルナンド・レオン・デ・アラノア2015年製作 スペイン映画

あらすじ
1995年、停戦協定が結ばれたばかりのバルカン半島。
NGO団体「国境なき水と衛生管理団」は、ある小さな村の井戸に投げ捨てられた人間の死体を引き上げる作業をしている最中に、ロープが切れてしまう。
そこで、リーダーのマンブルゥ(ベニチオ・デル・トロ)とビー(ティム・ロビンス)は、近くの村を回ってロープを探しに行くのだが…。

感想(ネタバレあり)
1995年 バルカン半島にある小さな村の井戸に投げ込まれた一体の死体
紛争地帯(表面的には停戦中)でのNGO団体の活動の難しさを通して、戦争が国民に与える影響や、様々な利権が絡んだ複雑さを描いた作品。
とても面白い作品だった。
バルカン半島では、冷戦の終結後、東欧の民主化にともない民族対立が発生。
それがユーゴスラビア紛争に発展したが、1995年ごろに沈静化し、停戦協定が結ばれたばかりだった。
とはいえ、停戦協定が結ばれたはずなのに、空爆は引き続き行われていて、その様子は旧ユーゴスラビア出身のエミール・クストリッツァ監督作「オン・ザ・ミルキー・ロード」でも描かれていた。
そんな状況の中で、NGO団体「国境なき水と衛生管理団」は井戸に落ちた死体を引き上げる作業をしていた。
しかし、もうすぐで引き上げられると思ったところで、死体を結んでいたロープが切れてしまう。
そこで彼らは、新たなロープを手に入れるために、周辺の村を回ることになった。
ところが、たかがロープ一本をなかなか手に入れることができない。
道中には牛の死体に埋め込まれた地雷が置かれ、村にたどり着けば、住民がほぼ全滅状態で人気のない村もあるし、国連に助けを求めてもらちが明かない。
様々な民族が入り混じるこの国では、大人たちの力関係が子供たちにも影響を与え、嫌われた人種の子供たちはカツアゲやいじめに遭う。
その現実を見つめながら、彼らは「命の危険にさらされた国民のために何をすべきか」を問い続けながら作業を続ける。
その活動を通して、紛争地帯でNGOが活動することの難しさ、そして、国連とは一体何のために存在しているのかについて考えさせられる作品だった。

死体によって汚染された井戸が示すものとは
人間は水を飲まなければ生きていけない。
ということは、この映画の舞台のように、上水道が整備されていない山間部の小さな村にとって、村の中心にある井戸は村人たちの「命の源泉」である。
その命の源泉に、死体が投げ込まれ、汚染されてしまったということは、彼らNGO団体がしていることは「村人の命を助ける作業」である。
では、なぜ、そんな貴重な場所に死体が投げ込まれたのか。
それは、その井戸のそばで「水を売っている人々」がいるからである。
「戦争によって金儲けをしたい人たち」が、紛争の混乱に乗じて死体を投げ込み、井戸を使えないようにし、自分たちは貧しい村人たちに水を売って金を巻き上げるのである。
ということは、「この井戸を村人の命」と考えると、そこにいきなり落ちてきた死体は、「戦争ビジネスで儲けたい人々によって引き起こされた紛争」を示していて、その中身は肥大し腐りきり、周辺の命を汚染する。
そして、なんとかしてそれを引き上げようとするロープは、「彼らの命をなんとしても救いたいと願う命綱」なのである。
周辺の村にその「命綱(=解決の糸口)」を探し歩いても見つからず、国連には拒絶され、たどり着いたのは民族浄化によってほとんどの村人が殺された村であり、ようやく見つけたロープは、死体を吊り下げていたものだった。
つまり、そのロープで死体を吊り上げた場合、井戸の汚染除去によって助かる命とは、他の村人たちの犠牲の上に成り立っているものなのである。

純粋に平和を願う人々と、戦争をしたい人々の狭間で
しかし、そうして、多くの人々を犠牲にしてまで死体を引き上げ、もうすぐ除去できるとなった時、村人たちの目の前で、再びその綱は切れてしまう。
しかも、国連軍の手によって、それは無情にも切られてしまうのだ。
それは、衝撃の結末だった。
つまり、平和を願う人々によって紛争がもうすぐ終わるとなった時、その平和を壊したのは国連軍だったのである。
実際に、この時、和平条約が結ばれていたにも関わらず、いつまで空爆を続けていたのは国連軍だったのである。
その当時の様子は、前述した「オン・ザ・ミルキー・ロード」でも描かれていた。
この時、国連軍は「平和を維持する」ことを目的でこのバルカン半島に入っていたのに、むしろ、平和を壊し、その裏には「戦争ビジネスで金儲けしたい人たち」の存在が見え隠れしている。
では、NGO団体「国境なき水と衛生管理団」(明らかに「国境なき医師団」を示していると思われる)は、もしかしたら、間違って地雷を踏んで爆死してしまうかもしれないという危険と背中合わせで活動しているのだが、純粋に平和を願う彼らが、その地でできることはあるのか。
必死で紛争地帯(表向き停戦中)の人々の命を助けようとしても、国連が彼らの目の前で、その苦労を水の泡にしてしまう。
そこに、平和を願うNGOの活動の難しさがある。
井戸の周りに集まってその中を覗き込み、「あの死体をどうやって取り除いて、村人の命を助けようか」と頭を悩ませたところで、村人たちからすれば「所詮、高みの見物」でしかないのである。

たとえ数人であっても、人の命を救った日は「素晴らしい一日」
結局、目の前でロープを切られてしまい、絶望的な気分になっている彼らが受けた指令は「簡易トイレのつまり除去」だった。
その「たかだか下水のつまり」を治すような、たとえ誰でもできる仕事であっても、その村で簡易トイレを使っている数千人を疫病から救うことができる。
それでも「何もしないよりはまし」なのだ。
そして、その道すがら、彼らが「不当に拘束されている」と通報した捕虜たちが乗った国連軍のバスとすれ違う。
もしかしたら、彼らも「民族浄化されてしまう人々だったかもしれない」と考えれば、多くの命を救ったことになる。
それもまた、「何もしないよりはまし」なのだ。
たとえそれが数人であっても、人々の命を救った日は、彼らにとって「A Perfect Day(素晴らしい一日)」(原題)なのだ。
そのためにNGO団体に入ったのであり、そのために命の危険を顧みず紛争地帯にいるのである。
そう思わないと、絶望して唖然とするような現実がそこにはあるのだ。
この映画の原作は「国境なき医師団」に所属する医師によって書かれたものなのだとか。
唖然とする現実をその目で見た人ならではの、かなり痛烈な皮肉のこもった作品だった。
一体、「平和維持軍」とは何のために存在し、何をするために紛争地帯に入っているのか。
現在、世界中で起きている紛争地帯で、この映画と同じことが起きているのでは…と考えると憂鬱な気分になる作品だった。
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映画『ロープ/戦場の生命線』★★★★4.0点。 面白かったなぁ〜
2018/02/24 17:07:03
久しぶりに観たティム・ロビンスのボケ担が良かったなぁ
紛争地帯だからこそ、笑いが必要… https://t.co/5VM811O4Jo #Filmarks #映画
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