シャーリーズ・セロン主演の映画「ダーク・プレイス」をWOWOWで観た。
28年前に起きた一家惨殺事件ついて、唯一の生存者が再調査するサスペンス映画。
【満足度 評価】:★★★☆☆
たくさんの不幸が重なって起きてしまった殺人事件だったけれど、悪いのは人間よりも貧しさだと感じた。
田舎の農場で、貧しいシングルマザーが思春期を迎えた子供たちを4人も育てていくことの難しさ。
裕福な家で、わがまま放題に育った娘は人の命の尊さを分からず、純愛を貫き通した息子は妹の人生を台無しにする。
もしも、もう少し彼らにゆとりがあったなら、こんなことにはならなかったのではと思ってしまうのが悲しい。
◆DVDで観る:「ダーク・プレイス」 Blu-ray
◆ネット配信で観る:Amazonプライム「ダーク・プレイス」(字幕版)
◆原作本「冥闇」
…(「タリーと私の秘密の時間」(兼 製作)、「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」(声の出演)、「アトミック・ブロンド」、「ワイルド・スピード ICE BREAK」、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」、「あの日欲望の大地で」、「裏切り者」など)
〇ニコラス・ホルト
…(「女王陛下のお気に入り」、「ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー」、「X-MEN:アポカリプス」、「マッド・ドライブ」、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」など)
〇クロエ・グレース・モレッツ
…(「サスペリア」、「クリミナル・タウン」、「彼女が目覚めるその日まで」、「アクトレス~女たちの舞台~」、「イコライザー」、「イフ・アイ・ステイ 愛が還る場所」、「(500)日のサマー」、「キック・アス」など)
〇コリー・ストール
…(「ファースト・マン」、「カフェ・ソサエティ」、「アントマン」、ドラマシリーズ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」など)
〇クリスティーナ・ヘンドリックス
…(「ネオン・デーモン」、「ドライヴ」など)
〇タイ・シェリダン
…(「X-MEN:アポカリプス」など)
2015年製作 イギリス、フランス、アメリカ合作映画

1985年テキサス州にある農場で一家惨殺事件が起きた。
一家の生存者である8歳のリビーが証人となり、15歳で長男のベンが犯人として逮捕された。
それから28年。支援団体からの寄付金で生活していたリビー(シャーリーズ・セロン)だったが、貯金が底をつき、生活が厳しくなっていた。
そんなリビーの元に「殺人クラブ」のライル(ニコラス・ホルト)から連絡があり、28年前の惨殺事件を再調査したら報酬を出すという。
過去の冤罪事件などを調べることを目的とした「殺人クラブ」としては、ベンが犯人だとは思っていなかった。
28年間、刑務所を訪れたことがなかったリビーだったが、生活費のため、刑務所にいるベン(コリー・ストール)を訪ねるのだが…。

これは、小さな田舎町で暮らす貧しい女性たちが生きていくことの難しさを描いた作品だった。
先日観た韓国映画「女は冷たい嘘をつく」でも「働く女性や貧しい女性が1人で子供を育てることの難しさ」を感じた。
この映画でも、やはり「働く女性、貧しい女性が子育てしていくことの難しさ」を感じた。
シングルマザーに限らず、たとえ、パートナーがいたとしても協力してもらえなかったり、共働きでも収入が少なかったり、保育園に預けられなかったりすれば、やはり子育ては難しい。
韓国や日本だけじゃなく、世界的に見ても「女性たちが男性たちと同等に生活しながら子育てすることの難しさ」は社会問題化している。
たとえ家庭が裕福だったとしても、わがまま放題に育てられた子供は人間性に問題を抱えて成長してしまう様子や、子育てだけでなく、女性が生きていくこと自体の難しさも同時に描かれていた。
男女雇用機会均等法が叫ばれ、「性別関係なく平等に」扱われるのは有難いことだし、「男性にすがって生きていく時代は終わった」と思うけど、かと言って、こういう映画を観てしまうと、「女性が社会で生きていく」道筋は、まだまだいばらの道なんだなぁと思う。

この映画には3人の「社会からドロップアウトしてしまった」女性たちが登場する。
主人公のリビー(シャーリーズ・セロン)は、1985年、まだ彼女が8歳だった頃、家族が惨殺されるという悲惨な事件に遭遇してしまう。
その時、唯一の生存者だった彼女は警察官に「家族を殺したのはお兄さんだよね?」と言われ、うなずいてしまう。
リビーの兄のベン(タイ・シェリダン)は、当時15歳で、近所では「悪魔崇拝している」と噂されているちょっとした不良であり、警察は決定的な証拠がなかったにも関わらず、リビーの証言と「悪魔崇拝している」という理由で家族を殺した殺人犯として逮捕してしまう。
しかし、実際のところ、リビーはその時、銃声を聞いて外へ逃げ出していたので、兄が家族を殺したのを見ていなかったのだ。
ところが、それに対して兄は一切反論をしなかったため、なかば犯行を認めることになってしまった。
それは、明らかに保守的な「陽の当たらない田舎町(ダーク・プレイス)」の手抜き捜査だった。
そして、その時にリビーがついた嘘が、それ以後彼女を苦しめることになる。
何も知らない自分が嘘の証言をしたせいで、兄は28年間も刑務所で暮らしている。
リビーは幼いながらも、そのことに心を痛め、引きこもりの生活をするようになってしまう。
世間は「家族が惨殺された気の毒な一家」に注目し、多くの支援団体が多額の寄付をしたため、リビーは寄付金のおかげで働きもせず生活することができた。
とはいえ、社会と接点を持たず、物置のような部屋で暮らす彼女は、「ただ息をしている」ような生活だった。
それから28年の時が過ぎ、彼女たち一家に対する世間の関心も薄れ、寄付金の貯金も底をついた今では、働かずに生きていくことが厳しくなりつつあった。
そんなお金に困ったリビーの元に、「事件の真相を究明する有志の会」である「殺人クラブ」が、「事件の真相を調査したら報酬を払う」と声を掛けてきたため、28年前の事件と改めて向き合うことになった。
しかし、彼女にとっても、「ドロップアウト」した生活から「普通の社会」で暮らしていくためには、28年前に起きた事件の真相を知り、真実と向き合うしかないのだ。
「事件の真相を調べたら金を払う」と殺人クラブに言われ、生活費のために始めた「真相解明」だったけど、それはリビーが生きていくための自然な成り行きだったように思う。

28年前、1985年頃のリビーの一家は離婚した母と、高校生で15歳の兄ベンと長女、次女、8歳の末娘リビーの4人暮らしだった。
リビーの母は両親から譲り受けた小さな農場を経営していたが、経営難による借金苦だった。
その上、離婚した夫が時折金をせびりに来て、常に金に困っているような状況だった。
正直言って、元夫というのが、なんでこんな男と…と思うような、ドラッグのバイヤーをやっている、いかにもだらしない感じの人だった。
それでも、子供たちにとっては唯一の父親であり、そんな父親の素性も私生活も知らず、無邪気に懐いている姿には胸が締め付けられる。
そんな状態の時に、母は警察から呼び出され、長男のベンが「悪魔崇拝している」「幼い子ににワイセツなことをしたと噂になっている」と注意されてしまう。
1985年のアメリカでも、そんなことにうるさかったのかとちょっとビックリした。
「悪魔崇拝」と言っても、マリリン・マンソンのような(実際には何ていうバンドを聞いているのか分からなかった)
ヘビメタを聞いているだけで、悪魔に血を捧げるような儀式をしている訳ではない。
学校から呼び出されるならまだ分かるけど、警官が真面目な顔をして、「オタクの息子は悪魔崇拝しているから危ない」と真剣に怒るなんて、やはり、アメリカ南部の田舎にある小さくて保守的な町は、こういうところなんだろうなぁと思った。
母はそこで、反論はするけれど、相当なショックを受けてしまう。
一生懸命、真面目に生きて、必死に子育てもしてきたつもりなのに、息子は道を誤っている。
そんなことが重なった彼女は、生きていく自信を失くし、子供たちのために保険金が下りるよう「嘱託殺人」のプロに彼女の殺害を依頼する。
つまり、殺人に見せかけた自殺だ。
目的は、彼女が死んでから保険金が子供たちにおりるようにしたかったのだ。
ところが、殺害を任されたプロは、夜中にひっそりと彼女だけを殺すはずだったのが、次女が騒いでしまったために、母親だけでなく次女を殺してしまったのだ。
そもそも、なんで死ぬことしか選択できなかったのか。
このお母さんの「後ろ向きな人生の選択」が悲しい。
自分が死ねば、みんなが幸せに生きていけるなんて、そんなことがあるはずないのに。
それは、借金苦、子育ての疲れ、息子の非行…様々なことが同時多発的に彼女に一気に降りかかった結果だった。
何よりも彼女を苦しめたのが、貧しさだったのだ。

そして、お母さんが自殺をした夜、偶然、彼女たちの家にいたのがベンのガールフレンドのディオンドラ(クロエ・グレース・モレッツ)だった。
彼女はベンの同級生であるにも関わらず、妊娠をしていて、さらにタバコも吸い、ドラッグもやっていた。
いかにも、絵に描いたような「悪女」だ。
ところが、15歳のベンは彼女に夢中で、お腹の子は自分の子供だと信じていた。
きっと、ベンにとっては初恋の女性だったんだろうし、盲目になってしまう気持ちもわかるけど、相手が悪すぎた。
ディオンドラは、ベンたち一家とは違って裕福な家で育ち、わがまま放題に暮らしていた。
その日の夜、ディオンドラはベンの家に行き、金を盗んでベンと遠くに行こうという話をしていた。
ディオンドラの家よりもずっと貧しい家なのに。
その時、ベンの妹である長女は彼らが悪だくみをしていることを知り、騒いだため、ディオンドラは妹の首を絞めてしまったのだ。
それも、「うるさかったから、殺して当然」のような顔をして。
妹を殺されたにも関わらず、ベンはディオンドラに夢中なままだった。
その後、ベンは、妹を殺した犯人について警察に聞かれても、何も言わなかった。
ただひとえに「自分の子供を妊娠している」恋人を守りたかったのだ。
その結果、ベンは28年間、刑務所で過ごすことになる。
しかし、その裏では、リビーが自分のせいでベンを28年間も刑務所に入れてしまったと悔やみ、苦しんでいたのだ。
その28年間、ベンは純愛を貫き通したと思っているかもしれないが、他人から見たら、ディオンドラはベンの純愛を利用していたようにしか見えない。
お腹の子供だって、本当にベンの子供かどうかも分からないのに。
ディオンドラという女性は、そういう「人の人生を狂わせても平然とした顔」をしている人なのだ。
彼女はベンの妹を殺害した後、逃げて姿を消し、偽名を使って生活していた。
結局、28年後にその真相は明らかになるけど、ベンやリビーが奪われた貴重な時間は戻って来ない。

このような一家惨殺事件が起きた時、マスコミや世間は、そのショッキングな事件の内容ばかりを気にすることだろう。
ショットガンで撃たれた母と次女、首を絞められた長女、悪魔崇拝の息子、納屋で震えているところを発見された末娘。
そして、犯人捜しが始まり、やはり、悪魔崇拝をしている息子が殺したんだろうと言って騒ぎ立てる。
しかし、真実はマスコミが求めている「悪魔の仕業」とは大きく異なっていた。
母がDVの夫と離婚し、生活が大変で、それでも子供たちは明るく育っていた。
「悪魔崇拝」と言われる息子だって、ただのヘビメタ好きの思春期の少年なのだ。
それでも母は生活が苦しくて、何とか子供たちだけでも保険金で生き延びられるようにと、自ら生きることを諦めてしまったのだ。
ところが、残されたリビーとベンは、母が望んだ人生とは全く違った人生を歩むことになってしまった。
この事件の真相が全て明らかになった時、犯人は「悪魔」でも「悪女」でもなく、「貧しさ」なのだと思った。
「貧困」が母の判断を鈍らせてしまったのだ。
それぐらい、女性が1人で、収入もあまり望めない中で4人の子供を育てていくことは大変なんだろうと思った。
最後に、車を運転しながら「これから普通の生活ができる」と言っていたリビーの顔には希望の光が差していた。
それでも、失われた28年間の月日は長すぎる。
子供たちは、家を選んで生まれてくるわけではない。
裕福な家だろうが、貧しい家だろうが、等しく教育を受ける権利がある。
大人たちにどんな事情があろうとも、愛情ある家庭で育って欲しいと願うばかり。
残念ながら、大人たちの世界が荒んでいると、子供たちの世界も同じく荒んでいくのだ。
政府も子供を増やせと言うのなら、育てやすい環境がなければ、せっかくの命も失われることになってしまうのではと、この映画を観て思った。
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◆原作本「冥闇」
28年前に起きた一家惨殺事件ついて、唯一の生存者が再調査するサスペンス映画。
【満足度 評価】:★★★☆☆
たくさんの不幸が重なって起きてしまった殺人事件だったけれど、悪いのは人間よりも貧しさだと感じた。
田舎の農場で、貧しいシングルマザーが思春期を迎えた子供たちを4人も育てていくことの難しさ。
裕福な家で、わがまま放題に育った娘は人の命の尊さを分からず、純愛を貫き通した息子は妹の人生を台無しにする。
もしも、もう少し彼らにゆとりがあったなら、こんなことにはならなかったのではと思ってしまうのが悲しい。
「ダーク・プレイス」予告編 動画
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キャスト&スタッフ
出演者
〇シャーリーズ・セロン…(「タリーと私の秘密の時間」(兼 製作)、「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」(声の出演)、「アトミック・ブロンド」、「ワイルド・スピード ICE BREAK」、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」、「あの日欲望の大地で」、「裏切り者」など)
〇ニコラス・ホルト
…(「女王陛下のお気に入り」、「ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー」、「X-MEN:アポカリプス」、「マッド・ドライブ」、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」など)
〇クロエ・グレース・モレッツ
…(「サスペリア」、「クリミナル・タウン」、「彼女が目覚めるその日まで」、「アクトレス~女たちの舞台~」、「イコライザー」、「イフ・アイ・ステイ 愛が還る場所」、「(500)日のサマー」、「キック・アス」など)
〇コリー・ストール
…(「ファースト・マン」、「カフェ・ソサエティ」、「アントマン」、ドラマシリーズ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」など)
〇クリスティーナ・ヘンドリックス
…(「ネオン・デーモン」、「ドライヴ」など)
〇タイ・シェリダン
…(「X-MEN:アポカリプス」など)
監督
〇ジル・パケ・ブランネール2015年製作 イギリス、フランス、アメリカ合作映画

あらすじ
1985年テキサス州にある農場で一家惨殺事件が起きた。
一家の生存者である8歳のリビーが証人となり、15歳で長男のベンが犯人として逮捕された。
それから28年。支援団体からの寄付金で生活していたリビー(シャーリーズ・セロン)だったが、貯金が底をつき、生活が厳しくなっていた。
そんなリビーの元に「殺人クラブ」のライル(ニコラス・ホルト)から連絡があり、28年前の惨殺事件を再調査したら報酬を出すという。
過去の冤罪事件などを調べることを目的とした「殺人クラブ」としては、ベンが犯人だとは思っていなかった。
28年間、刑務所を訪れたことがなかったリビーだったが、生活費のため、刑務所にいるベン(コリー・ストール)を訪ねるのだが…。

感想(ネタバレあり)
貧しい女性が子育てをしていくことの難しさ
これは、小さな田舎町で暮らす貧しい女性たちが生きていくことの難しさを描いた作品だった。
先日観た韓国映画「女は冷たい嘘をつく」でも「働く女性や貧しい女性が1人で子供を育てることの難しさ」を感じた。
この映画でも、やはり「働く女性、貧しい女性が子育てしていくことの難しさ」を感じた。
シングルマザーに限らず、たとえ、パートナーがいたとしても協力してもらえなかったり、共働きでも収入が少なかったり、保育園に預けられなかったりすれば、やはり子育ては難しい。
韓国や日本だけじゃなく、世界的に見ても「女性たちが男性たちと同等に生活しながら子育てすることの難しさ」は社会問題化している。
たとえ家庭が裕福だったとしても、わがまま放題に育てられた子供は人間性に問題を抱えて成長してしまう様子や、子育てだけでなく、女性が生きていくこと自体の難しさも同時に描かれていた。
男女雇用機会均等法が叫ばれ、「性別関係なく平等に」扱われるのは有難いことだし、「男性にすがって生きていく時代は終わった」と思うけど、かと言って、こういう映画を観てしまうと、「女性が社会で生きていく」道筋は、まだまだいばらの道なんだなぁと思う。

ドロップアウトしていた生活から、現実社会へと引きずり戻される
この映画には3人の「社会からドロップアウトしてしまった」女性たちが登場する。
主人公のリビー(シャーリーズ・セロン)は、1985年、まだ彼女が8歳だった頃、家族が惨殺されるという悲惨な事件に遭遇してしまう。
その時、唯一の生存者だった彼女は警察官に「家族を殺したのはお兄さんだよね?」と言われ、うなずいてしまう。
リビーの兄のベン(タイ・シェリダン)は、当時15歳で、近所では「悪魔崇拝している」と噂されているちょっとした不良であり、警察は決定的な証拠がなかったにも関わらず、リビーの証言と「悪魔崇拝している」という理由で家族を殺した殺人犯として逮捕してしまう。
しかし、実際のところ、リビーはその時、銃声を聞いて外へ逃げ出していたので、兄が家族を殺したのを見ていなかったのだ。
ところが、それに対して兄は一切反論をしなかったため、なかば犯行を認めることになってしまった。
それは、明らかに保守的な「陽の当たらない田舎町(ダーク・プレイス)」の手抜き捜査だった。
そして、その時にリビーがついた嘘が、それ以後彼女を苦しめることになる。
何も知らない自分が嘘の証言をしたせいで、兄は28年間も刑務所で暮らしている。
リビーは幼いながらも、そのことに心を痛め、引きこもりの生活をするようになってしまう。
世間は「家族が惨殺された気の毒な一家」に注目し、多くの支援団体が多額の寄付をしたため、リビーは寄付金のおかげで働きもせず生活することができた。
とはいえ、社会と接点を持たず、物置のような部屋で暮らす彼女は、「ただ息をしている」ような生活だった。
それから28年の時が過ぎ、彼女たち一家に対する世間の関心も薄れ、寄付金の貯金も底をついた今では、働かずに生きていくことが厳しくなりつつあった。
そんなお金に困ったリビーの元に、「事件の真相を究明する有志の会」である「殺人クラブ」が、「事件の真相を調査したら報酬を払う」と声を掛けてきたため、28年前の事件と改めて向き合うことになった。
しかし、彼女にとっても、「ドロップアウト」した生活から「普通の社会」で暮らしていくためには、28年前に起きた事件の真相を知り、真実と向き合うしかないのだ。
「事件の真相を調べたら金を払う」と殺人クラブに言われ、生活費のために始めた「真相解明」だったけど、それはリビーが生きていくための自然な成り行きだったように思う。

貧困、子育ての疲れ、息子の非行…それらが母を不幸へと追い詰める
28年前、1985年頃のリビーの一家は離婚した母と、高校生で15歳の兄ベンと長女、次女、8歳の末娘リビーの4人暮らしだった。
リビーの母は両親から譲り受けた小さな農場を経営していたが、経営難による借金苦だった。
その上、離婚した夫が時折金をせびりに来て、常に金に困っているような状況だった。
正直言って、元夫というのが、なんでこんな男と…と思うような、ドラッグのバイヤーをやっている、いかにもだらしない感じの人だった。
それでも、子供たちにとっては唯一の父親であり、そんな父親の素性も私生活も知らず、無邪気に懐いている姿には胸が締め付けられる。
そんな状態の時に、母は警察から呼び出され、長男のベンが「悪魔崇拝している」「幼い子ににワイセツなことをしたと噂になっている」と注意されてしまう。
1985年のアメリカでも、そんなことにうるさかったのかとちょっとビックリした。
「悪魔崇拝」と言っても、マリリン・マンソンのような(実際には何ていうバンドを聞いているのか分からなかった)
ヘビメタを聞いているだけで、悪魔に血を捧げるような儀式をしている訳ではない。
学校から呼び出されるならまだ分かるけど、警官が真面目な顔をして、「オタクの息子は悪魔崇拝しているから危ない」と真剣に怒るなんて、やはり、アメリカ南部の田舎にある小さくて保守的な町は、こういうところなんだろうなぁと思った。
母はそこで、反論はするけれど、相当なショックを受けてしまう。
一生懸命、真面目に生きて、必死に子育てもしてきたつもりなのに、息子は道を誤っている。
そんなことが重なった彼女は、生きていく自信を失くし、子供たちのために保険金が下りるよう「嘱託殺人」のプロに彼女の殺害を依頼する。
つまり、殺人に見せかけた自殺だ。
目的は、彼女が死んでから保険金が子供たちにおりるようにしたかったのだ。
ところが、殺害を任されたプロは、夜中にひっそりと彼女だけを殺すはずだったのが、次女が騒いでしまったために、母親だけでなく次女を殺してしまったのだ。
そもそも、なんで死ぬことしか選択できなかったのか。
このお母さんの「後ろ向きな人生の選択」が悲しい。
自分が死ねば、みんなが幸せに生きていけるなんて、そんなことがあるはずないのに。
それは、借金苦、子育ての疲れ、息子の非行…様々なことが同時多発的に彼女に一気に降りかかった結果だった。
何よりも彼女を苦しめたのが、貧しさだったのだ。

人の人生を平然と狂わせる悪女
そして、お母さんが自殺をした夜、偶然、彼女たちの家にいたのがベンのガールフレンドのディオンドラ(クロエ・グレース・モレッツ)だった。
彼女はベンの同級生であるにも関わらず、妊娠をしていて、さらにタバコも吸い、ドラッグもやっていた。
いかにも、絵に描いたような「悪女」だ。
ところが、15歳のベンは彼女に夢中で、お腹の子は自分の子供だと信じていた。
きっと、ベンにとっては初恋の女性だったんだろうし、盲目になってしまう気持ちもわかるけど、相手が悪すぎた。
ディオンドラは、ベンたち一家とは違って裕福な家で育ち、わがまま放題に暮らしていた。
その日の夜、ディオンドラはベンの家に行き、金を盗んでベンと遠くに行こうという話をしていた。
ディオンドラの家よりもずっと貧しい家なのに。
その時、ベンの妹である長女は彼らが悪だくみをしていることを知り、騒いだため、ディオンドラは妹の首を絞めてしまったのだ。
それも、「うるさかったから、殺して当然」のような顔をして。
妹を殺されたにも関わらず、ベンはディオンドラに夢中なままだった。
その後、ベンは、妹を殺した犯人について警察に聞かれても、何も言わなかった。
ただひとえに「自分の子供を妊娠している」恋人を守りたかったのだ。
その結果、ベンは28年間、刑務所で過ごすことになる。
しかし、その裏では、リビーが自分のせいでベンを28年間も刑務所に入れてしまったと悔やみ、苦しんでいたのだ。
その28年間、ベンは純愛を貫き通したと思っているかもしれないが、他人から見たら、ディオンドラはベンの純愛を利用していたようにしか見えない。
お腹の子供だって、本当にベンの子供かどうかも分からないのに。
ディオンドラという女性は、そういう「人の人生を狂わせても平然とした顔」をしている人なのだ。
彼女はベンの妹を殺害した後、逃げて姿を消し、偽名を使って生活していた。
結局、28年後にその真相は明らかになるけど、ベンやリビーが奪われた貴重な時間は戻って来ない。

犯人は「悪魔」でも「悪女」でもなく「貧しさ」
このような一家惨殺事件が起きた時、マスコミや世間は、そのショッキングな事件の内容ばかりを気にすることだろう。
ショットガンで撃たれた母と次女、首を絞められた長女、悪魔崇拝の息子、納屋で震えているところを発見された末娘。
そして、犯人捜しが始まり、やはり、悪魔崇拝をしている息子が殺したんだろうと言って騒ぎ立てる。
しかし、真実はマスコミが求めている「悪魔の仕業」とは大きく異なっていた。
母がDVの夫と離婚し、生活が大変で、それでも子供たちは明るく育っていた。
「悪魔崇拝」と言われる息子だって、ただのヘビメタ好きの思春期の少年なのだ。
それでも母は生活が苦しくて、何とか子供たちだけでも保険金で生き延びられるようにと、自ら生きることを諦めてしまったのだ。
ところが、残されたリビーとベンは、母が望んだ人生とは全く違った人生を歩むことになってしまった。
この事件の真相が全て明らかになった時、犯人は「悪魔」でも「悪女」でもなく、「貧しさ」なのだと思った。
「貧困」が母の判断を鈍らせてしまったのだ。
それぐらい、女性が1人で、収入もあまり望めない中で4人の子供を育てていくことは大変なんだろうと思った。
最後に、車を運転しながら「これから普通の生活ができる」と言っていたリビーの顔には希望の光が差していた。
それでも、失われた28年間の月日は長すぎる。
子供たちは、家を選んで生まれてくるわけではない。
裕福な家だろうが、貧しい家だろうが、等しく教育を受ける権利がある。
大人たちにどんな事情があろうとも、愛情ある家庭で育って欲しいと願うばかり。
残念ながら、大人たちの世界が荒んでいると、子供たちの世界も同じく荒んでいくのだ。
政府も子供を増やせと言うのなら、育てやすい環境がなければ、せっかくの命も失われることになってしまうのではと、この映画を観て思った。
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