クリストファー・ノーラン監督の映画「ダンケルク」を映画館で観た。
第二次大戦中の1940年5月、イギリス軍がドイツ軍によってフランスの北部ダンケルクに追い詰められた兵士たちを救出するために実行された作戦を映画化。
【満足度 評価】:★★★★★
残念ながらIMAXで観ることができなかったけれど、映像と音から伝わる臨場感が凄まじくて、何度も逃げ出したいと思った。
いきなり、戦場に連れて行かれて、「ちょっと、体験していきなさい」と言われているような、それぐらいの臨場感があった。
その臨場感が訴えかけるのは、なんとしてでも生きたい、生き延びたいという気持ち。
そして、この106分だけでも耐えられない戦場の恐ろしさ。
その命の大切さと、戦場の恐ろしさを伝えるために、その臨場感があるんだということがよく分かる作品だった。
◆ネット配信で観る:「ダンケルク」(字幕版)
◆DVDで観る:「ダンケルク」
◆ノーラン監督インタビュー掲載「ダンケルク」実話
〇トム・ハーディ
…(「ヴェノム」、「裏切りのサーカス」、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」、「レヴェナント 蘇りし者」、「チャイルド44」、「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」、「ウォーリアー」、「レジェンド 狂気の美学」、「インセプション」、「ロンドン・ロード ある殺人に関する証言」など)
〇マーク・ライランス
…(「レディ・プレイヤー1」、「BIG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント 」、「ブリッジ・オブ・スパイ」など)
〇キリアン・マーフィー
…(「フリー・ファイアー」、「麦の穂を揺らす風」、「真珠の耳飾りの少女」、「白鯨との闘い」、「トランセンデンス」、「インセプション」など)
〇ケネス・ブラナー
…(「パイレーツ・ロック」、「ワルキューレ」、「シンデレラ」(監督のみ)など)
〇トム・グリン=カーニー
〇ハリー・スタイルズ
〇バリー・コーガン
〇クリストファー・ノーラン
…(「インターステラー」、「インセプション」など)
2017年製作 イギリス、フランス、アメリカ合作映画

第二次大戦中の1940年5月。
ヒトラー率いるドイツに占領されつつあるフランスでは、北部の海岸線にあるダンケルクに40万人の英仏同盟軍の兵士が追い詰められていた。
イギリス政府は、ダンケルクから兵士たちを救出する作戦を実行するが、海軍の船が足りず、民間人に協力を呼びかける。
遊覧船のオーナーのドーソン(マーク・ライランス)は、政府の呼びかけに応じ、息子のピーター(トム・グリン=カーニー)と助手のジョージ(バリー・コーガン)を連れ、ダンケルクへ向かう。
また、兵士が集まる海岸では、ドイツ空軍から攻撃を受けていたためイギリス空軍のファリア(トム・ハーディ)とコリンズ(ジャック・ロウデン)が迎撃に向かう。

第二次大戦中の1940年5月。
ヒトラー率いるドイツ軍により、英仏連合軍40万の兵士がフランス北部の都市ダンケルクに追い詰められてしまう。
イギリス軍は、彼らの救出に向かうが、軍艦が足りず、民間人に協力を呼び掛けた。
これは、その実話を映画化したもの。
この映画ができるまで、そんな実話があったなんて、正直知らなかった。
しかし、確かによく考えてみれば、1940年当時、ドイツは「フランスを制圧した!次はヨーロッパ全土を制圧しよう!!」と言って戦勝ムードに湧いていた時期だった。
そのドイツの勢いは、先日観た映画「ヒトラーへの285枚の葉書」の中でも描かれていたことなので、ヨーロッパ全土を覆っていたナチスドイツ黒い影については想像しやすかった。
この映画は、主人公の青年(というか、ほぼ少年)トミーが市街地を走っているシーンからスタートする。
そこでは銃撃戦が行われていて、英仏同盟軍がなんとかドイツ軍をこれ以上に先に進ませないようにと、必死で防御している。
そこからトミーが走り切った先には海岸が広がり、多くの兵士がそこへ避難していた。
その逃げるトミーの様子から分かるのは、その海岸のすぐそばまでドイツ軍が来ているということだった。
目の前は海、背中にはドイツ軍。
海の向こう側にはイギリスが見えているのに、泳いで渡るには遠すぎて、迎えの船は満員だし、ケガ人しか乗り込むことができない。
そこは広い海岸で、身を守る障害物などない。
その状況の中で、1週間をかけて兵士たちの救出作戦が行われた。

私が、何よりも凄いと思ったのは、この映画の臨場感だった。
ドイツ機が撃ち込んでくる空襲の音や、迫りくるドイツ機の迫力ある映像。
低空飛行するドイツ機が爆弾を落としていく時には、まるで自分にも当たるんじゃないかと思うぐらいに臨場感のある音がして、思わず頭を抱えてしまった。
そして、なんとか船に乗り込んだはいいけれど、Uボートによる魚雷攻撃を受けて船が沈んでしまう。
そこから一気に大量の水が流れ込んでくる恐ろしさ。
私は、泳ぎが得意で長時間水の中にいられる自信があるけど、それでも「今すぐ溺れるんじゃないか…」という恐怖心で、その場から逃げ出したくなった。
そして、その裏で流れる音楽と音。
緊迫した状況になると、効果音のような時計の秒針を思わせる音がチクタクと鳴り続ける。
ただでさえ緊迫した状況で、その音が、さらにその気持ちを逆なでする。
その後、不安な時には不安な音が鳴り響き、緊迫した状況になると秒針の音が戻ってくる。
あの音を思い出しただけで、今でもドキドキする。
その、まるで疑似体験をしているようなリアルの臨場感が観客に伝えるのは、戦場の恐ろしさである。
本物の戦争とは、誰かヒーローがいて、敵をバタバタと倒すものではなく、人間と人間が殺し合う場であり、空爆は生身の人間に向かって容赦なく行われ、魚雷は船を沈ませ、多くの人間が船と共に沈んでいく。
その『戦場の恐怖』を伝えるため、この映画は、迫力ある映像と音を使い、よりリアルな臨場感を演出しているのだ。

また、この映画が他の戦争映画とちょっと毛色が違うのは、『軍の撤退』を描いていること。
例えば、ノルマンディ上陸作戦のようなヒトラーに向かって進軍していく話は、何度も映画で観ている。
それは、悪を倒すために命を懸けて立ち向かって行く男たちの姿には、子供の頃から慣れ親しんだアメコミのヒーローものに通じるものがある。
しかし、この映画は、それらの戦争映画とはちょっと違う。
今、戦況が悪化しているから、生きるために国に帰りましょうという映画である。
これは、今まであまり観なかったことである。
そこで感じるのは、『勝つか負けるか』ではなく、『生きるか死ぬか』である。
『勝つか負けるか』を考えた場合、明らかにイギリス軍は『負けている』
それならば、まだ命ある兵士を助けるため、そこから撤退して『生きる道』を選択したのだ。
とても印象的だったのは、無事、イギリスにたどり着いた兵士の1人(ハリー・スタイルズ)が、電車の中で主人公のトミーに向かって「住民と目を合わせるな。なんで帰ってきたんだと言われるぞ」と言って、窓に背を向けるシーンがある。
ところが、実際はそんなことはなくて、電車が着いた駅では多くの市民が彼らのことを歓迎し、「よく帰ってきた」と喜びの声を上げていた。
兵士にとって撤退はとても恥ずべきことでも、国民はそんな風に思っていなかったのだ。
命よりも大切なものなどこの世にはないのだ。
この『勇気ある撤退』が、観客に訴えるのは、そんな一人一人の命の大切さだ。
『負ける』と分かっているのなら、一人でも多くの命を救うために撤退する勇気を持つ。
そして、仕切り直し、再び体力をつけて次の勝機を狙う。
イギリス軍が連合軍の一部となってノルマンディ上陸作戦が行われ、ヨーロッパの戦況が変わるのは、ここから4年後の1944年のことである。
この時、命を救われた多くの兵士がいたからこそ、ノルマンディ上陸作戦を実行することができたのだ。

この映画の中で、最も感動するのは、民間人の協力である。
映画の中では、マーク・ライランス演じるドーソンがイギリス政府の呼びかけに応え、自分が持つ遊覧船に救命胴衣を乗せ、息子のピーターと、お手伝いのジョージを連れ、ダンケルクへと向かう。
その途中で、避難中に魚雷に遭い、精神が錯乱してしまった兵士(キリアン・マーフィー)を拾う。
その兵士とドーソンのやり取りがとても印象的だった。
兵士は、今すぐにでもイギリスに帰りたいのに、ドーソンはダンケルクへ向かうと言う。
「ダメだ。ダンケルクは火の海だ。死にに行くようなものだ。なんで、そんなことをするんだ」
と、兵士がドーソンに問いかけた時、ドーソンは
「これは、我々の世代が始めた戦争で、息子のような子供たちを戦地に送ってしまった。
我々には、戦争を始めた責任がある」
ドーソンは、かつて長男を戦争で亡くした経験があり、同じような年頃の子供たちを1人でも多く救いたいという気持ちがあった。
それでも納得できない兵士は、船内で暴れ、ジョージを突き飛ばしてしまう。
そんな兵士の様子を見たピーターは、「彼は臆病者なの?」と父に訪ねた時、「そうじゃない。戦場で怖い目に遭ったんだよ」とピーターに応える。
恐らく、その時兵士はPTSDだったと思われるが、ドーソンは、そんな兵士たちをたくさん見てきたし、その兵士もドーソンにとっては息子の一人なのだ。
それは、ドーソンだけが思っていたことではなく、その「1人でも多くの息子を救いたい」という思いは、その時ダンケルクに向かった多くの民間船も同じ気持ちだったんだろうと思う。
そして、彼らがダンケルクに着いた時、他にも多くの民間船がダンケルクの海岸に到着していた。
海岸を埋め尽くすように集まった多数の民間船の姿は、とても感動的だった。
ドーソンのような遊覧船や、漁船、小さなヨット、プレジャーボートまで、様々な船が危険をかえりみず、戦地へと向かっていた。
彼らは、本当に勇気ある人々だ。
その様子を見て思い出したのは、映画『パイレーツ・ロック』だった。
1960年代、イギリスのラジオでロックを流すことが禁じられていた時代。
地上のラジオ局がダメなら、海上ならいいだろうと、船の上にあるラジオ局からロック音楽を流していたDJたちの実話を映画化した作品。
この映画では、最後に船が沈没するという時に、「近くにいる人は助けに来てください」と呼びかけると、彼らが違法で、国から目を付けられていると知りながらも、多くの民間船が彼らを助けに向かった。
その時に集まった船の様子が、この「ダンケルク」に集まった船の様子とまるで一緒だったのだ。
もしかしたら、その時のダンケルクの「いざとなったら助けるために駆け付ける」という精神は、その後もそうやって受け継がれているのかなと思った。
音と映像で伝える戦争の恐ろしさも凄いし、勇気ある撤退からは命の大切さを感じるし、民間人の船からは、助け合うことの素晴らしさを教えられる。
わずか106分という短さの中に、様々なできごとが濃縮して詰め込まれ、そこからは多くのメッセージを感じ取ることができる。
「親世代の人間が勝手に戦争を初めて、子供たちを戦場に送り込んでいる」
何よりも大切なのは、一人でも多くの人間が生き延びることである。
親世代の人間が、殺し合いを望むなら、本人たちが殺し合えば良い。
そんなことを痛切に感じさせる作品だった。
一人でも多くの人に観て欲しい映画である。
「人生はシネマティック!」人生が辛い時、現実を忘れてさせ気持ちをリセットさせてくれる映画の素晴らしさ。大事なのはリアリティかそれとも夢や希望か。イギリス映画【感想】
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◆ノーラン監督インタビュー掲載「ダンケルク」実話
第二次大戦中の1940年5月、イギリス軍がドイツ軍によってフランスの北部ダンケルクに追い詰められた兵士たちを救出するために実行された作戦を映画化。
【満足度 評価】:★★★★★
残念ながらIMAXで観ることができなかったけれど、映像と音から伝わる臨場感が凄まじくて、何度も逃げ出したいと思った。
いきなり、戦場に連れて行かれて、「ちょっと、体験していきなさい」と言われているような、それぐらいの臨場感があった。
その臨場感が訴えかけるのは、なんとしてでも生きたい、生き延びたいという気持ち。
そして、この106分だけでも耐えられない戦場の恐ろしさ。
その命の大切さと、戦場の恐ろしさを伝えるために、その臨場感があるんだということがよく分かる作品だった。
「ダンケルク」予告編 動画
(原題:DUNKIRK)更新履歴・販売情報
・2017年9月11日 映画館で観た感想を掲載。
・2018年6月23日 WOWOWでの放送に合わせて加筆・修正。
現在、ネット配信、DVD共に販売中。
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キャスト&スタッフ
出演者
〇フィオン・ホワイトヘッド〇トム・ハーディ
…(「ヴェノム」、「裏切りのサーカス」、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」、「レヴェナント 蘇りし者」、「チャイルド44」、「オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分」、「ウォーリアー」、「レジェンド 狂気の美学」、「インセプション」、「ロンドン・ロード ある殺人に関する証言」など)
〇マーク・ライランス
…(「レディ・プレイヤー1」、「BIG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント 」、「ブリッジ・オブ・スパイ」など)
〇キリアン・マーフィー
…(「フリー・ファイアー」、「麦の穂を揺らす風」、「真珠の耳飾りの少女」、「白鯨との闘い」、「トランセンデンス」、「インセプション」など)
〇ケネス・ブラナー
…(「パイレーツ・ロック」、「ワルキューレ」、「シンデレラ」(監督のみ)など)
〇トム・グリン=カーニー
…(「ふたりの女王 メアリーとエリザベス」など)
〇ハリー・スタイルズ
〇バリー・コーガン
監督
〇クリストファー・ノーラン
…(「インターステラー」、「インセプション」など)
2017年製作 イギリス、フランス、アメリカ合作映画

あらすじ
第二次大戦中の1940年5月。
ヒトラー率いるドイツに占領されつつあるフランスでは、北部の海岸線にあるダンケルクに40万人の英仏同盟軍の兵士が追い詰められていた。
イギリス政府は、ダンケルクから兵士たちを救出する作戦を実行するが、海軍の船が足りず、民間人に協力を呼びかける。
遊覧船のオーナーのドーソン(マーク・ライランス)は、政府の呼びかけに応じ、息子のピーター(トム・グリン=カーニー)と助手のジョージ(バリー・コーガン)を連れ、ダンケルクへ向かう。
また、兵士が集まる海岸では、ドイツ空軍から攻撃を受けていたためイギリス空軍のファリア(トム・ハーディ)とコリンズ(ジャック・ロウデン)が迎撃に向かう。

感想(ネタバレあり)
遠くに見える対岸はイギリス、背中にはドイツ軍
第二次大戦中の1940年5月。
ヒトラー率いるドイツ軍により、英仏連合軍40万の兵士がフランス北部の都市ダンケルクに追い詰められてしまう。
イギリス軍は、彼らの救出に向かうが、軍艦が足りず、民間人に協力を呼び掛けた。
これは、その実話を映画化したもの。
この映画ができるまで、そんな実話があったなんて、正直知らなかった。
しかし、確かによく考えてみれば、1940年当時、ドイツは「フランスを制圧した!次はヨーロッパ全土を制圧しよう!!」と言って戦勝ムードに湧いていた時期だった。
そのドイツの勢いは、先日観た映画「ヒトラーへの285枚の葉書」の中でも描かれていたことなので、ヨーロッパ全土を覆っていたナチスドイツ黒い影については想像しやすかった。
この映画は、主人公の青年(というか、ほぼ少年)トミーが市街地を走っているシーンからスタートする。
そこでは銃撃戦が行われていて、英仏同盟軍がなんとかドイツ軍をこれ以上に先に進ませないようにと、必死で防御している。
そこからトミーが走り切った先には海岸が広がり、多くの兵士がそこへ避難していた。
その逃げるトミーの様子から分かるのは、その海岸のすぐそばまでドイツ軍が来ているということだった。
目の前は海、背中にはドイツ軍。
海の向こう側にはイギリスが見えているのに、泳いで渡るには遠すぎて、迎えの船は満員だし、ケガ人しか乗り込むことができない。
そこは広い海岸で、身を守る障害物などない。
その状況の中で、1週間をかけて兵士たちの救出作戦が行われた。

まるで戦場に突き落とされたような臨場感が観客に伝えるもの
私が、何よりも凄いと思ったのは、この映画の臨場感だった。
ドイツ機が撃ち込んでくる空襲の音や、迫りくるドイツ機の迫力ある映像。
低空飛行するドイツ機が爆弾を落としていく時には、まるで自分にも当たるんじゃないかと思うぐらいに臨場感のある音がして、思わず頭を抱えてしまった。
そして、なんとか船に乗り込んだはいいけれど、Uボートによる魚雷攻撃を受けて船が沈んでしまう。
そこから一気に大量の水が流れ込んでくる恐ろしさ。
私は、泳ぎが得意で長時間水の中にいられる自信があるけど、それでも「今すぐ溺れるんじゃないか…」という恐怖心で、その場から逃げ出したくなった。
そして、その裏で流れる音楽と音。
緊迫した状況になると、効果音のような時計の秒針を思わせる音がチクタクと鳴り続ける。
ただでさえ緊迫した状況で、その音が、さらにその気持ちを逆なでする。
その後、不安な時には不安な音が鳴り響き、緊迫した状況になると秒針の音が戻ってくる。
あの音を思い出しただけで、今でもドキドキする。
その、まるで疑似体験をしているようなリアルの臨場感が観客に伝えるのは、戦場の恐ろしさである。
本物の戦争とは、誰かヒーローがいて、敵をバタバタと倒すものではなく、人間と人間が殺し合う場であり、空爆は生身の人間に向かって容赦なく行われ、魚雷は船を沈ませ、多くの人間が船と共に沈んでいく。
その『戦場の恐怖』を伝えるため、この映画は、迫力ある映像と音を使い、よりリアルな臨場感を演出しているのだ。

「ダンケルク」は、勇気ある撤退の物語
また、この映画が他の戦争映画とちょっと毛色が違うのは、『軍の撤退』を描いていること。
例えば、ノルマンディ上陸作戦のようなヒトラーに向かって進軍していく話は、何度も映画で観ている。
それは、悪を倒すために命を懸けて立ち向かって行く男たちの姿には、子供の頃から慣れ親しんだアメコミのヒーローものに通じるものがある。
しかし、この映画は、それらの戦争映画とはちょっと違う。
今、戦況が悪化しているから、生きるために国に帰りましょうという映画である。
これは、今まであまり観なかったことである。
そこで感じるのは、『勝つか負けるか』ではなく、『生きるか死ぬか』である。
『勝つか負けるか』を考えた場合、明らかにイギリス軍は『負けている』
それならば、まだ命ある兵士を助けるため、そこから撤退して『生きる道』を選択したのだ。
とても印象的だったのは、無事、イギリスにたどり着いた兵士の1人(ハリー・スタイルズ)が、電車の中で主人公のトミーに向かって「住民と目を合わせるな。なんで帰ってきたんだと言われるぞ」と言って、窓に背を向けるシーンがある。
ところが、実際はそんなことはなくて、電車が着いた駅では多くの市民が彼らのことを歓迎し、「よく帰ってきた」と喜びの声を上げていた。
兵士にとって撤退はとても恥ずべきことでも、国民はそんな風に思っていなかったのだ。
命よりも大切なものなどこの世にはないのだ。
この『勇気ある撤退』が、観客に訴えるのは、そんな一人一人の命の大切さだ。
『負ける』と分かっているのなら、一人でも多くの命を救うために撤退する勇気を持つ。
そして、仕切り直し、再び体力をつけて次の勝機を狙う。
イギリス軍が連合軍の一部となってノルマンディ上陸作戦が行われ、ヨーロッパの戦況が変わるのは、ここから4年後の1944年のことである。
この時、命を救われた多くの兵士がいたからこそ、ノルマンディ上陸作戦を実行することができたのだ。

「1人でも多くの兵士を助けたい」という民間船の気持ちが胸を打つ
この映画の中で、最も感動するのは、民間人の協力である。
映画の中では、マーク・ライランス演じるドーソンがイギリス政府の呼びかけに応え、自分が持つ遊覧船に救命胴衣を乗せ、息子のピーターと、お手伝いのジョージを連れ、ダンケルクへと向かう。
その途中で、避難中に魚雷に遭い、精神が錯乱してしまった兵士(キリアン・マーフィー)を拾う。
その兵士とドーソンのやり取りがとても印象的だった。
兵士は、今すぐにでもイギリスに帰りたいのに、ドーソンはダンケルクへ向かうと言う。
「ダメだ。ダンケルクは火の海だ。死にに行くようなものだ。なんで、そんなことをするんだ」
と、兵士がドーソンに問いかけた時、ドーソンは
「これは、我々の世代が始めた戦争で、息子のような子供たちを戦地に送ってしまった。
我々には、戦争を始めた責任がある」
ドーソンは、かつて長男を戦争で亡くした経験があり、同じような年頃の子供たちを1人でも多く救いたいという気持ちがあった。
それでも納得できない兵士は、船内で暴れ、ジョージを突き飛ばしてしまう。
そんな兵士の様子を見たピーターは、「彼は臆病者なの?」と父に訪ねた時、「そうじゃない。戦場で怖い目に遭ったんだよ」とピーターに応える。
恐らく、その時兵士はPTSDだったと思われるが、ドーソンは、そんな兵士たちをたくさん見てきたし、その兵士もドーソンにとっては息子の一人なのだ。
それは、ドーソンだけが思っていたことではなく、その「1人でも多くの息子を救いたい」という思いは、その時ダンケルクに向かった多くの民間船も同じ気持ちだったんだろうと思う。
そして、彼らがダンケルクに着いた時、他にも多くの民間船がダンケルクの海岸に到着していた。
海岸を埋め尽くすように集まった多数の民間船の姿は、とても感動的だった。
ドーソンのような遊覧船や、漁船、小さなヨット、プレジャーボートまで、様々な船が危険をかえりみず、戦地へと向かっていた。
彼らは、本当に勇気ある人々だ。
その様子を見て思い出したのは、映画『パイレーツ・ロック』だった。
1960年代、イギリスのラジオでロックを流すことが禁じられていた時代。
地上のラジオ局がダメなら、海上ならいいだろうと、船の上にあるラジオ局からロック音楽を流していたDJたちの実話を映画化した作品。
この映画では、最後に船が沈没するという時に、「近くにいる人は助けに来てください」と呼びかけると、彼らが違法で、国から目を付けられていると知りながらも、多くの民間船が彼らを助けに向かった。
その時に集まった船の様子が、この「ダンケルク」に集まった船の様子とまるで一緒だったのだ。
もしかしたら、その時のダンケルクの「いざとなったら助けるために駆け付ける」という精神は、その後もそうやって受け継がれているのかなと思った。
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音と映像で伝える戦争の恐ろしさも凄いし、勇気ある撤退からは命の大切さを感じるし、民間人の船からは、助け合うことの素晴らしさを教えられる。
わずか106分という短さの中に、様々なできごとが濃縮して詰め込まれ、そこからは多くのメッセージを感じ取ることができる。
「親世代の人間が勝手に戦争を初めて、子供たちを戦場に送り込んでいる」
そして、送り込まれた戦場で感じるのは、勝つか負けるかではなく、『生きるか死ぬか』である。
何よりも大切なのは、一人でも多くの人間が生き延びることである。
親世代の人間が、殺し合いを望むなら、本人たちが殺し合えば良い。
そんなことを痛切に感じさせる作品だった。
一人でも多くの人に観て欲しい映画である。
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「キングスマン:ゴールデンサークル」に出演するエルトン・ジョン
2017/09/11 12:11:24
どんな役なのか気になるわ〜
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