ジョーダン・ピール監督作の「ゲット・アウト」を映画館で観た。
人種差別をテーマに扱ったホラー映画。
【満足度 評価】:★★★★★
「この先、こうなるだろうなぁ」という予想を完全に覆し、全く真逆の世界を見せる。
しかし、その「こうなるだろうなぁ」という予想は、観客の中にある差別意識が勝手に生み出したものである。
結局、この映画から思い起こす「人を虐げる差別」とは、それぞれの観客の頭の中に潜在的に植え付けられた意識の中にある。
映画を観てから、この感想をお読みください。
◆Amazon Prime で観る:「ゲット・アウト」(字幕版)
◆DVDで観る:「ゲット・アウト」
…(「ボーダーライン」など)
〇アリソン・ウィリアムズ
〇ブラッドリー・ウィットフォード
…(「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」、「アイ・ソー・ザ・ライト」など)
〇ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
…(「バリー・シール/アメリカをはめた男」など)
〇キャサリン・キーナー
2017年製作 アメリカ映画

付き合い始めてから4カ月たったクリス(ダニエル・カルーヤ)とローズ(アリソン・ウィリアムズ)は、ローズの実家で行われる親戚の集いに出席するため、クリスは初めてローズの両親と対面することになった。
しかし、ローズは白人のため、「両親に嫌われるのでは」という不安を抱えるクリスと、何も心配はいらないと言うローズ。
ローズの家に着くと、脳神経外科医の父ディーン(ブラッドリー・ウィットフォード)と、精神科医の母ミッシー(キャサリン・キーナー)に歓迎されたクリス。
裕福な彼女の家は豪邸で、黒人女性のお手伝いさんと、黒人男性の庭師がいるような大きな家だった。
そして、しばらくすると、そのお手伝いさんと庭師の様子がおかしいことにクリスが気付くのだが…。

この作品に私は見事にだまされた!!
できることなら、なるべく予備知識なしで見て欲しい。
そして、この感想も映画を観終わってから読んで欲しい。
私は常に、何も先入観がない状態で映画を楽しみたいので、映画を観る前にあまり予習はしない派である。
この映画も、事前に知っていたのは『人種差別』をテーマにしたホラー映画ということだけ。
しかし、そこからして既に私はこの映画のトラップにかかっていたということが、後で分かる。
物語は、黒人男性クリスと白人女性アリソンのカップルの物語。
クリスは彼女の自宅に招待され、初めて挨拶するのに、彼女はクリスが黒人だとは両親に言ってないと言うので、もしかして両親に「嫌われるのでは…」と思い、緊張している。
最近では、黒人男性と白人女性のカップルなんて、そんなに珍しくないイメージがある。
しかし、ただでさえ『彼女の両親に挨拶する』ことに緊張するのに、相手が裕福な白人家庭となると、そりゃあ誰だって緊張するんだろうなぁとクリスの気持ちを思いやった。
そして、彼女の実家に到着してみると、そこは豪邸であり、周囲には彼女の実家以外の家がないという素晴らしい景色。
さらに、黒人のお手伝いさんと、庭師までいる。
それからしばらくして、クリスは、その家のお手伝いさんと庭師の様子がおかしいことに気づく…。

この映画の前半部分では、ほとんど事件が起きない。
冒頭で黒人男性が誰かにさらわれる映像があるのと、アリソンが運転する車で鹿を轢いてしまう事故があった。
この時、警察は運転していないクリスにまで運転免許証の提示を求めたので、この辺は人種差別的な土地柄なのでは…と思った。
しかし、アリソンの実家で働く黒人のお手伝いさんと庭師の様子がなんとなくおかしい。
話したいことがあっても、話せないという雰囲気を匂わせている。
そこで私は彼らの様子を見て、「いくらアリソンの両親が差別意識はない」と言ったって、お手伝いさんと庭師を使ってるじゃないのと思う。
やっぱり、これが裕福な白人社会の現実なんだろうなぁと考える。
きっと、このアリソン一家に酷い目にあっているから、様子がおかしいんだな。
彼らも虐げられているから、そのことを言い出せないんだな…と、この先の展開を想像していた。
さらにその時、私の頭の中には、「これは『人種差別』をテーマにしたホラー映画なんだ」という予備知識があった。
だから、きっとおとなしくしている黒人たちは、何か言ってはいけない驚くべき事情があるんだろうと考えた。
そう考えていると、彼ら裕福な白人家庭が集まる親戚同士の『懇親会』が開催された。
その中に、若い黒人男性アンドリューがひとり混じっている。
そのアンドリューが、白人男性のような話し方をすることにクリスは驚きつつも、その人がかつて会ったことがある人だということに気づく。
その時、クリスはそのことを親友のロッドに電話で話し、ロッドが調べた結果、そのアンドリューが行方不明者だということが分かる。
そして、その時、クリスも、クリスの親友のロッドも、私も「ここでは黒人が誘拐されて、人体実験されて、奴隷にされているんだ!!」と確信する。
だから、クリスはアリソンを連れて、そこから早く逃げなきゃ!!と思った。
ロッドの「性奴隷」はちょっと言い過ぎだとしても(笑)、彼の言っていることはほぼ間違いない!!と思った。

しかし、後半になって、それらは、私の『人種差別に対する思い込み』からきた空想であることが分かる。
実際にそこで起きていたことは、完全に真逆の出来事だった。
これは「黒人に憧れて、黒人になりたい人たちの話」なのである!!
同じ『人種差別』でも、私が思っていた『差別』とは、全く逆方向の差別が行われていた。
確かに、誰も「黒人は下等だ」なんて一言も言っていない。
むしろ、お父さんは「オバマ最高!もう一期あったら、確実にオバマに投票してた」と言っていたし、いきなり体を触ってくるおばさんもいた。
さらに、クリスの写真を見たことがあると言っていた男性は、クリスの写真の才能を絶賛していた。
彼らは、「黒人に憧れている」のだ。
それが分かった瞬間に、「えーーーーーっっっそっちーーーーーーーー!?」って思った。
完全にやられたと思った。
「黒人だから奴隷にされている」とか、「黒人だから虐げられている」と考えたのは、私の頭の中にある『差別意識』と『黒人差別に対するステレオタイプ』が作り出した妄想である。
映画は、私が思うよりもずっと先を歩いている。
優れた脳外科医の父は、黒人たちの素晴らしい身体と自分たちを融合させ、長生きする方法を考えた。
それが、脳移植だった。
だから、そこにいる黒人たちは、黒人なのに、白人のような話し方をして、白人のような振る舞いをする。
また、この中で、日本人が1人出てきて、白人のような話し方で、白人のような振る舞いをするが、あれは完全に「自分も白人の仲間だと思っている」日本人に対する皮肉である。

結局、この映画は、オープニングの映像から不穏な雰囲気を作り出し、親友のロッドを使って観客を誘導し、その目を欺いた上で、話を逆転させ、「黒人の身体を崇め、黒人になりたい人たち」を登場させる。
黒人たちはこれまで「虐げるのをやめろ!」と訴え続けてきたが、そこで「崇め奉られることも地獄」であることを知る。
私たちは、虐げられ、なじられることが差別だと思い込み、この映画の中でもそれが起きていると錯覚するが、そのどんでん返しにより、「崇められ信奉されること」も差別であり、苦痛であることを知る。
映画の前半で「きっと、この先、黒人が洗脳されて、奴隷にされるんだろう」と思った世界は、私の頭の中にある『差別意識』が生み出した妄想。
なぜ、私は、「黒人たちを捕まえて洗脳し、奴隷にしている」なんて考えたのか。
それは、私の頭の中にある黒人差別に対する偏見と思い込みが生み出した幻想である。
その人のことを知りもしないで、「あぁ、あの人は差別されているんだな、虐げられているんだな」と勝手に思うこと自体が、差別であり、偏見であることを思い知らされる。
しかし、それにしても、こんなにトリッキーな映画は初めて見た。
私が映画を観て、予測した世界は、私の頭の中にある偏見が生み出しているものだったなんて。
アリソンは、黒人男性の身体を品定めするただの兵隊で、父の後をジェレミーが継ぎ、裕福な白人たちによる黒人男性たちの人身売買は、この後も続けられていくはずだった
なるほどなぁ。
結局のところ、虐げられても、崇められても地獄ということ。
本当の差別の無い世界とは、上に見ることも、下に見ることもせず、何事も平等に扱うということ。
それは、女性蔑視の視点で考えて見れば良くわかる。
「あいつはブス」という差別もあれば、「あの人は美しすぎる」という差別もある。
こんな展開を予想していなかった??
それは、あなたの中の人種差別への思いが、ストーリーを勝手に作り上げただけだよね??
そんな風に映画から語りかけられている気がした。
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◆Amazon Prime で観る:「ゲット・アウト」(字幕版)
◆DVDで観る:「ゲット・アウト」
人種差別をテーマに扱ったホラー映画。
【満足度 評価】:★★★★★
「この先、こうなるだろうなぁ」という予想を完全に覆し、全く真逆の世界を見せる。
しかし、その「こうなるだろうなぁ」という予想は、観客の中にある差別意識が勝手に生み出したものである。
結局、この映画から思い起こす「人を虐げる差別」とは、それぞれの観客の頭の中に潜在的に植え付けられた意識の中にある。
映画を観てから、この感想をお読みください。
目次
「ゲット・アウト」予告編 動画
(原題:Get Out)更新履歴・公開、販売情報
・2017年11月9日 映画館で観た感想を掲載。
・2019年8月25日 WOWOWでの放送に合わせて加筆・修正。
現在、DVD、ネット配信、共に販売中。
◆Amazon Prime で観る:「ゲット・アウト」(字幕版)
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◆DVDで観る:「ゲット・アウト」
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キャスト&スタッフ
出演者
〇ダニエル・カルーヤ…(「ボーダーライン」など)
〇アリソン・ウィリアムズ
〇ブラッドリー・ウィットフォード
…(「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」、「アイ・ソー・ザ・ライト」など)
〇ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ
…(「バリー・シール/アメリカをはめた男」など)
〇キャサリン・キーナー
…(「アンクル・ドリュー」など)
監督・脚本・製作
〇ジョーダン・ピール2017年製作 アメリカ映画

あらすじ
付き合い始めてから4カ月たったクリス(ダニエル・カルーヤ)とローズ(アリソン・ウィリアムズ)は、ローズの実家で行われる親戚の集いに出席するため、クリスは初めてローズの両親と対面することになった。
しかし、ローズは白人のため、「両親に嫌われるのでは」という不安を抱えるクリスと、何も心配はいらないと言うローズ。
ローズの家に着くと、脳神経外科医の父ディーン(ブラッドリー・ウィットフォード)と、精神科医の母ミッシー(キャサリン・キーナー)に歓迎されたクリス。
裕福な彼女の家は豪邸で、黒人女性のお手伝いさんと、黒人男性の庭師がいるような大きな家だった。
そして、しばらくすると、そのお手伝いさんと庭師の様子がおかしいことにクリスが気付くのだが…。

感想(ネタばれあり)
人種差別をテーマにしたホラー映画
この作品に私は見事にだまされた!!
できることなら、なるべく予備知識なしで見て欲しい。
そして、この感想も映画を観終わってから読んで欲しい。
私は常に、何も先入観がない状態で映画を楽しみたいので、映画を観る前にあまり予習はしない派である。
この映画も、事前に知っていたのは『人種差別』をテーマにしたホラー映画ということだけ。
しかし、そこからして既に私はこの映画のトラップにかかっていたということが、後で分かる。
物語は、黒人男性クリスと白人女性アリソンのカップルの物語。
クリスは彼女の自宅に招待され、初めて挨拶するのに、彼女はクリスが黒人だとは両親に言ってないと言うので、もしかして両親に「嫌われるのでは…」と思い、緊張している。
最近では、黒人男性と白人女性のカップルなんて、そんなに珍しくないイメージがある。
しかし、ただでさえ『彼女の両親に挨拶する』ことに緊張するのに、相手が裕福な白人家庭となると、そりゃあ誰だって緊張するんだろうなぁとクリスの気持ちを思いやった。
そして、彼女の実家に到着してみると、そこは豪邸であり、周囲には彼女の実家以外の家がないという素晴らしい景色。
さらに、黒人のお手伝いさんと、庭師までいる。
それからしばらくして、クリスは、その家のお手伝いさんと庭師の様子がおかしいことに気づく…。

「きっと黒人たちは虐げられ、奴隷にされているに違いない」と先の展開を推測
この映画の前半部分では、ほとんど事件が起きない。
冒頭で黒人男性が誰かにさらわれる映像があるのと、アリソンが運転する車で鹿を轢いてしまう事故があった。
この時、警察は運転していないクリスにまで運転免許証の提示を求めたので、この辺は人種差別的な土地柄なのでは…と思った。
それ以降は、後半まで何も起きない。
しかし、アリソンの実家で働く黒人のお手伝いさんと庭師の様子がなんとなくおかしい。
話したいことがあっても、話せないという雰囲気を匂わせている。
そこで私は彼らの様子を見て、「いくらアリソンの両親が差別意識はない」と言ったって、お手伝いさんと庭師を使ってるじゃないのと思う。
やっぱり、これが裕福な白人社会の現実なんだろうなぁと考える。
きっと、このアリソン一家に酷い目にあっているから、様子がおかしいんだな。
彼らも虐げられているから、そのことを言い出せないんだな…と、この先の展開を想像していた。
さらにその時、私の頭の中には、「これは『人種差別』をテーマにしたホラー映画なんだ」という予備知識があった。
だから、きっとおとなしくしている黒人たちは、何か言ってはいけない驚くべき事情があるんだろうと考えた。
そう考えていると、彼ら裕福な白人家庭が集まる親戚同士の『懇親会』が開催された。
その中に、若い黒人男性アンドリューがひとり混じっている。
そのアンドリューが、白人男性のような話し方をすることにクリスは驚きつつも、その人がかつて会ったことがある人だということに気づく。
その時、クリスはそのことを親友のロッドに電話で話し、ロッドが調べた結果、そのアンドリューが行方不明者だということが分かる。
そして、その時、クリスも、クリスの親友のロッドも、私も「ここでは黒人が誘拐されて、人体実験されて、奴隷にされているんだ!!」と確信する。
だから、クリスはアリソンを連れて、そこから早く逃げなきゃ!!と思った。
ロッドの「性奴隷」はちょっと言い過ぎだとしても(笑)、彼の言っていることはほぼ間違いない!!と思った。

「白人たちは、黒人たちに憧れている」という差別
しかし、後半になって、それらは、私の『人種差別に対する思い込み』からきた空想であることが分かる。
実際にそこで起きていたことは、完全に真逆の出来事だった。
これは「黒人に憧れて、黒人になりたい人たちの話」なのである!!
同じ『人種差別』でも、私が思っていた『差別』とは、全く逆方向の差別が行われていた。
確かに、誰も「黒人は下等だ」なんて一言も言っていない。
むしろ、お父さんは「オバマ最高!もう一期あったら、確実にオバマに投票してた」と言っていたし、いきなり体を触ってくるおばさんもいた。
さらに、クリスの写真を見たことがあると言っていた男性は、クリスの写真の才能を絶賛していた。
彼らは、「黒人に憧れている」のだ。
それが分かった瞬間に、「えーーーーーっっっそっちーーーーーーーー!?」って思った。
完全にやられたと思った。
「黒人だから奴隷にされている」とか、「黒人だから虐げられている」と考えたのは、私の頭の中にある『差別意識』と『黒人差別に対するステレオタイプ』が作り出した妄想である。
映画は、私が思うよりもずっと先を歩いている。
優れた脳外科医の父は、黒人たちの素晴らしい身体と自分たちを融合させ、長生きする方法を考えた。
それが、脳移植だった。
だから、そこにいる黒人たちは、黒人なのに、白人のような話し方をして、白人のような振る舞いをする。
また、この中で、日本人が1人出てきて、白人のような話し方で、白人のような振る舞いをするが、あれは完全に「自分も白人の仲間だと思っている」日本人に対する皮肉である。

虐げられるのも、崇められるのも差別であり、地獄
結局、この映画は、オープニングの映像から不穏な雰囲気を作り出し、親友のロッドを使って観客を誘導し、その目を欺いた上で、話を逆転させ、「黒人の身体を崇め、黒人になりたい人たち」を登場させる。
黒人たちはこれまで「虐げるのをやめろ!」と訴え続けてきたが、そこで「崇め奉られることも地獄」であることを知る。
私たちは、虐げられ、なじられることが差別だと思い込み、この映画の中でもそれが起きていると錯覚するが、そのどんでん返しにより、「崇められ信奉されること」も差別であり、苦痛であることを知る。
映画の前半で「きっと、この先、黒人が洗脳されて、奴隷にされるんだろう」と思った世界は、私の頭の中にある『差別意識』が生み出した妄想。
なぜ、私は、「黒人たちを捕まえて洗脳し、奴隷にしている」なんて考えたのか。
それは、私の頭の中にある黒人差別に対する偏見と思い込みが生み出した幻想である。
その人のことを知りもしないで、「あぁ、あの人は差別されているんだな、虐げられているんだな」と勝手に思うこと自体が、差別であり、偏見であることを思い知らされる。
しかし、それにしても、こんなにトリッキーな映画は初めて見た。
私が映画を観て、予測した世界は、私の頭の中にある偏見が生み出しているものだったなんて。
アリソンは、黒人男性の身体を品定めするただの兵隊で、父の後をジェレミーが継ぎ、裕福な白人たちによる黒人男性たちの人身売買は、この後も続けられていくはずだった
なるほどなぁ。
結局のところ、虐げられても、崇められても地獄ということ。
本当の差別の無い世界とは、上に見ることも、下に見ることもせず、何事も平等に扱うということ。
それは、女性蔑視の視点で考えて見れば良くわかる。
「あいつはブス」という差別もあれば、「あの人は美しすぎる」という差別もある。
こんな展開を予想していなかった??
それは、あなたの中の人種差別への思いが、ストーリーを勝手に作り上げただけだよね??
そんな風に映画から語りかけられている気がした。
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