ウェス・アンダーソン監督のストップモーション アニメーション映画「犬ヶ島」を試写会で観た。
「犬インフルエンザ」のために犬ヶ島に隔離されてしまった犬たちと、飼い犬を探しに犬ヶ島へ行った少年アタリの冒険物語。
【満足度 評価】:★★★★☆(4.5)
面白かった!
少年と一匹の浪人による鬼退治。
現代社会における鬼とは一体何か。
それを考えると、そこに根深い人間の悪が潜んでいる。
犬たちのかわいさだけでも十分楽しめるけど、その裏で人口爆発、人種差別など現代の問題が描かれている
◆ネット配信で観る:「犬ヶ島」(字幕版)
◆DVDで観る:「犬ヶ島」
◆The Wes Anderson Collection: メイキングブック 犬ヶ島
◆サウンドトラック「犬ヶ島」
〇リーヴ・シュレイバー
〇ブライアン・クランストン
…(「30年後の同窓会」、「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」、「幸せの教室」、「ドライヴ」、「コンテイジョン」、「アイ’ム ホーム 覗く男」、ドラマシリーズ「ブレイキング・バッド」など)
〇エドワード・ノートン
…(「素晴らしきかな、人生」、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」、「グランド・ブダペスト・ホテル」、「キングダム・オブ・ヘブン」など)
〇ボブ・バラバン
〇ビル・マーレイ
…(「ゴーストバスターズ」、「ジャングル・ブック」、「ミケランジェロ・プロジェクト」、「グランド・ブダペスト・ホテル」など)
〇ジェフ・ゴールドブラム
…(「ジュラシック・ワールド/炎の王国」、「インディペンデンス・デイ:リサージェンス」、「ウィークエンドはパリで」など)
〇スカーレット・ヨハンソン
…(「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」、「ゴースト・イン・ザ・シェル」、「SING/シング」、「ジャングル・ブック」(声のみ)、「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」、「LUCY ルーシー」、「ヘイル・シーザー!」、「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」、「真珠の耳飾りの少女」、「アベンジャーズ・エイジ・オブ・ウルトロン」、「キャプテン・アメリカ ウィンターソルジャー」、「アベンジャーズ」、「her/世界で一つの彼女」、「ママが遺したラヴソング」など)
2018年製作 アメリカ映画
今から20年後の日本。
メガ崎市では、犬が急増。
メガ崎の小林市長は、「犬インフルエンザ」の疑いがあるとして犬を犬ヶ島に隔離してしまう。
そこで、アタリ少年(コーユー・ランキン)は、自分の飼い犬だったスポッツ(リーヴ・シュレイバー)を探しに行くのだが…。
日本を舞台にしたストップモーションアニメーション作品。
そこには、黒沢映画などや日本文化、日本の風土へのオマージュが感じられる作品になっている。
これは、「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」の時のように、日本で映画にするべき作品だなと思った。
今から20年後の近未来。
日本にあるメガ崎市では、急激に犬が増加し、犬が国土を圧迫することを恐れた小林市長は「『犬インフルエンザ』が人間にうつる可能性がある」として、犬たちをゴミを投棄するための島『犬ヶ島』へ隔離してしまう。
その小林市長による恐怖政治が続く中、アタリ少年は、かつて飼っていた犬の「スポッツ」を救うため、一人で飛行機を操縦して犬ヶ島へやってくる。
そこで、アタリ少年は犬たちに助けられ、彼らと共に「スポッツ探し」を始める。
予告編の雰囲気や、犬と冒険物語というと、なんとなく犬と少年のほのぼのとした作品に思えるかもしれないし、確かに、ただ物語を追っているとそう思えるかもしれない。
しかし、この物語には「これからの世界で起きえる社会問題」が詰め込まれ、アタリ少年をガイド役として描かれている。
まず、20年後という時代設定。
具体的に何が起きるかといえば、2038年、世界人口が90億人(現在 76億人)を超えると言われている。
そうなると、多くの貧しい国で食糧難と疫病が蔓延し、多くの人々が貧困で生きていけなくなる。
その来るべき「人口爆発問題」を、この映画では犬で表現している。
その人口爆発に悩まされるのが、メガ崎市(メガシティというのは、巨大都市(ニューヨークや東京など)の意)である。
犬が増えすぎて困った市長は、犬たちを犬ヶ島に隔離してしまい、隔離された犬たちはわずかな食糧を奪い合って争い合う。
これは、2038年に人口爆発が起きた場合、増えすぎた人口に困った巨大都市は「ある人種のみ」を何かしら理由をつけて「隔離すること」を予言しているのだ。
それは、第二次大戦中のホロコーストや、南アフリカのアパルトヘイトのように。
そして、隔離された人々は、わずかな食糧を奪い合い、争い、殺し合うのだ。
このストップモーションアニメ「犬ヶ島」は、犬と少年の心温まる友情を描きながら、その背景では一部の人間のエゴにより人種隔離政策が行われることを予言し、その危機を救う少年と犬を主人公とした物語なのである。
そもそも「犬ヶ島」というタイトルから思い浮かべるのは、「鬼ヶ島」である。
そのタイトル通り、この物語はアタリ少年による「鬼退治」が描かれている。
そのアタリ少年のお供となるのが、犬ヶ島で出会った犬のチーフである。
そのチーフは、「誰の家臣でもない気位の高い浪人」そのものであり、黒沢映画に出てくる三船敏郎の影響を大きく感じるキャラクターになっている。
本来は「誰のものでもなかった孤高の犬」だったはずが、アタリと出会い、彼の優しさに触れ、やがてチーフは立派なアタリ少年の用心棒になるのである。
そのチーフのキャラクターを見ていると、これこそ、日本で映画化するべき作品だったと思わずにはいられないのである。
それでは、アタリ少年が退治すべき『鬼』とは、一体何なのか。
それは、権力を持ち、恐怖で国民をあおって制圧しようとする独裁者である。
この物語で言えば、「犬インフルエンザ」で市民に恐怖を植え付け、犬を隔離する宣言をした小林市長である。
小林市長は「犬インフルエンザによって人間が疫病にかかる可能性がある」という理由で犬たちを隔離してしまうが、本当は犬インフルエンザ治療薬も開発されていた。
しかし、小林市長はその治療薬の存在を隠ぺいし、市民に「犬インフルエンザが怖い。市長は犬インフルエンザから守ってくれる人」というイメージを植え付ける。
そうして、市民は「犬インフルエンザで死にたくない」から、小林市長の独裁政権に服従するのである。
小林市長自身は、犬たちを自分の政策に利用して、支持率を高めているのだ。
それは、かつてヒトラーが「ユダヤ人は劣った人種」として隔離し、人々に恐怖を植え付けて統制したのとまるで同じやり方である。
20年後の世界は、人口が爆発し、巨大都市には多くの人が溢れ、一部の富裕層の人間が「ある人種のみを隔離せよ」と言い出す時代がやってくる。
それは、既にアメリカで始まっていて、トランプ政権が「移民は国へ帰れ」と言って、自分たちの国土は壁で囲っている話とつながっている。
犬ヶ島で犬たちと仲良くなり「これからも犬たちと暮らしていきたい」と思ったアタリ少年は、犬たちを連れて小林市長の元へ抗議に行く。
実は小林市長はアタリ少年の養父であり、アタリ少年の話なら聞いてくれると思ったからだ。
アタリ少年は犬だけでなく、恐怖政治や隠ぺいなどから市民を救うことにもなる。
これはアタリ少年による鬼(=小林市長)退治なのだ。
恐怖政治で制圧されるメガ崎市と対照的に描かれるのが、犬ヶ島である。
そこは何の資源もなく、ゴミしかない不毛な土地である。
しかし、そんな場所であっても、犬たちは助け合って幸せそうに生きている。
犬ヶ島で暮らす犬たちはみな、色も柄も大きさも種類も、みんなバラバラである。
それでも、みんなが助け合って励まし合って生きている。
つまり、これは「犬だって、色が違ったって、種類が違ったって、みんな平等で助け合って生きているのに、なんで人間はできないのか」ということである。
その象徴となるのが犬のチーフである。
彼は初めは「真っ黒な犬」として登場する。
はじめは「チーフは黒い犬だ」と思って見ているが、途中で身体を洗うと実は「白い犬」だということが分かってくる。
しかし、周りにいる彼の友人たちは「黒い犬」が「白い犬」になったからといって態度が変わるわけではない。
それは当然のことだろう。
しかし、もしも、人間に同じことが起きたらどうだろうか。
初めは「黒人」だと思っていた人が、実は「白人」だったら。
出会ったころは、平気で彼に向って差別的な発言をしていたのに、ある日「白人」だと分かったら、それらの言葉を撤回するのだろうか。
これは、犬から見たら、肌の色が違っていたって、人間は同じ人間なのに、人間同士は「肌の色」によって態度を変えることを批判しているのだ。
彼らは、私たちに「みんなが平等で共に助け合って生きること」を示している。
肌の色が違っていたって、種類が違っていたって、同じ人間であり、平等なのだ。
そのことを、私たちは犬たちに教えられているのだ。
アタリ少年が「犬ヶ島」に行き、犬たちに助けられながらスポッツと再会した結果、全ての悪の根源は養父の小林市長にあることを知り、アタリ少年は小林市長にこの恐怖政治をやめるように直談判に行く。
犬ヶ島でアタリ少年と知り合い、これまで「誰のものでもない」と言っていた、まるで浪人のようなチーフは、アタリ少年の用心棒となり、他の犬たちもアタリ少年についていく。
そして、アタリ少年の勇気ある行動に若者たちも賛同し、「犬たちの解放」を求める。
それには、はじめは聞く耳を持たなかった小林市長も、アタリ少年が病気になったことをきっかけに、父と息子の関係を改善し、犬を解放する。
そこには、ウェス・アンダーソン監督自身の「父親との関係」が反映されている。
先日、映画評論家の町山さんのトークショー「映画サーチライト」に参加した際、町山さんはウェス・アンダーソン監督の作品について
「ウェス・アンダーソン監督は8歳の時に両親が離婚して、父親が家を出てしまった。
彼の作品には、その時の影響が色濃く出ていて、全ての作品が父と息子の関係を描いたものなんです。」
とおっしゃっていた。
その話を聞いて、この結末にとても納得した。
犬たちを隔離し、市民に恐怖を植え付ける、まるでヒトラーのような独裁者の小林市長も「誰かの父親」であり、父性であることを自覚させれば、恐怖政治もやめるだろうと、ウェス・アンダーソン監督は考えているのだ。
全ての悪は「家族の関係」に起因していて、家族の関係を改善すれば、悪は減っていくだろうと、ウェス・アンダーソン監督は考えているのだろうと思った。
その理想の形はスポッツである。
スポッツは、それまで「アタリ少年を守ること」が仕事だったが、家族ができたことで、「もうアタリ少年の用心棒はできない。家族を守らなければいけないから」と言っている。
ウェス・アンダーソン監督は、生活の中心に「家族」があるべきだと考えているのだ。
家族がいて守るべきものがあれば、「悪」になるはずはない。
最近、こういう諸悪の根源は「家族の関係にあり」という映画が増えているような気がする。
毒親の影響で、暴力的になってしまった人を描いた作品「ビューティフル・デイ」も「アイ,トーニャ」などもその一つ。
全ての悪の根源は「家族にある」というのは大げさな気もするけど、「自信のなさからくるコンプレックスによる反動」とか、「暴力への考え方」というのは両親の影響もあると思うので、ウェス・アンダーソン監督の考え方もなきしもあらずだなと思った。
また、この映画には、人口爆発の問題や、人種差別の問題、家族の問題だけでなく、外国人の強制送還などについても考えさせられる。
そして、人間も犬たちのように、人種や肌の色に関わらず、みんな平等で仲良く生きられたらいいなぁとしみじみ思うのである。
★Twitterでも映画や海外ドラマの情報を発信しています~
↓ 人気ブログランキングに参加しています。クリックをお願いします

映画 ブログランキングへ

にほんブログ村
◆ネット配信で観る:「犬ヶ島」(字幕版)
◆DVDで観る:「犬ヶ島」
◆The Wes Anderson Collection: メイキングブック 犬ヶ島
◆サウンドトラック「犬ヶ島」
「犬インフルエンザ」のために犬ヶ島に隔離されてしまった犬たちと、飼い犬を探しに犬ヶ島へ行った少年アタリの冒険物語。
【満足度 評価】:★★★★☆(4.5)
面白かった!
少年と一匹の浪人による鬼退治。
現代社会における鬼とは一体何か。
それを考えると、そこに根深い人間の悪が潜んでいる。
犬たちのかわいさだけでも十分楽しめるけど、その裏で人口爆発、人種差別など現代の問題が描かれている
目次
「犬ヶ島」予告編 動画
(原題: Isle of Dogs)更新履歴・公開、販売情報
・2018年5月10日 試写会で観た感想を掲載。
・2019年2月17日 WOWOWでの放送に合わせて加筆・修正。
現在、DVD、ネット配信、共に販売中。
◆ネット配信で観る:「犬ヶ島」(字幕版)
![]() |
新品価格 |

◆DVDで観る:「犬ヶ島」
![]() |
犬ヶ島 [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray] 新品価格 |

◆The Wes Anderson Collection: メイキングブック 犬ヶ島
![]() |
The Wes Anderson Collection: メイキングブック 犬ヶ島 新品価格 |

◆サウンドトラック「犬ヶ島」
![]() |
新品価格 |

キャスト&スタッフ
声の出演
〇コーユー・ランキン〇リーヴ・シュレイバー
…(「スパイダーマン:スパイダーバース」(声の出演)、「スポットライト 世紀のスクープ」、「ディファイアンス」、「ジゴロ・イン・ニューヨーク」、「フィフス・ウェイブ」、「ソルト」、「チャック~“ロッキー”になった男~」など)
〇ブライアン・クランストン
…(「30年後の同窓会」、「トランボ ハリウッドに最も嫌われた男」、「幸せの教室」、「ドライヴ」、「コンテイジョン」、「アイ’ム ホーム 覗く男」、ドラマシリーズ「ブレイキング・バッド」など)
〇エドワード・ノートン
…(「素晴らしきかな、人生」、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」、「グランド・ブダペスト・ホテル」、「キングダム・オブ・ヘブン」など)
〇ボブ・バラバン
〇ビル・マーレイ
…(「ゴーストバスターズ」、「ジャングル・ブック」、「ミケランジェロ・プロジェクト」、「グランド・ブダペスト・ホテル」など)
〇ジェフ・ゴールドブラム
…(「ジュラシック・ワールド/炎の王国」、「インディペンデンス・デイ:リサージェンス」、「ウィークエンドはパリで」など)
〇スカーレット・ヨハンソン
…(「アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー」、「ゴースト・イン・ザ・シェル」、「SING/シング」、「ジャングル・ブック」(声のみ)、「シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ」、「LUCY ルーシー」、「ヘイル・シーザー!」、「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」、「真珠の耳飾りの少女」、「アベンジャーズ・エイジ・オブ・ウルトロン」、「キャプテン・アメリカ ウィンターソルジャー」、「アベンジャーズ」、「her/世界で一つの彼女」、「ママが遺したラヴソング」など)
監督
〇ウェス・アンダーソン2018年製作 アメリカ映画

あらすじ
今から20年後の日本。
メガ崎市では、犬が急増。
メガ崎の小林市長は、「犬インフルエンザ」の疑いがあるとして犬を犬ヶ島に隔離してしまう。
そこで、アタリ少年(コーユー・ランキン)は、自分の飼い犬だったスポッツ(リーヴ・シュレイバー)を探しに行くのだが…。

感想(ネタバレあり)
なぜ、20年後がこの物語の舞台になっているのか
日本を舞台にしたストップモーションアニメーション作品。
そこには、黒沢映画などや日本文化、日本の風土へのオマージュが感じられる作品になっている。
これは、「KUBO/クボ 二本の弦の秘密」の時のように、日本で映画にするべき作品だなと思った。
今から20年後の近未来。
日本にあるメガ崎市では、急激に犬が増加し、犬が国土を圧迫することを恐れた小林市長は「『犬インフルエンザ』が人間にうつる可能性がある」として、犬たちをゴミを投棄するための島『犬ヶ島』へ隔離してしまう。
その小林市長による恐怖政治が続く中、アタリ少年は、かつて飼っていた犬の「スポッツ」を救うため、一人で飛行機を操縦して犬ヶ島へやってくる。
そこで、アタリ少年は犬たちに助けられ、彼らと共に「スポッツ探し」を始める。
予告編の雰囲気や、犬と冒険物語というと、なんとなく犬と少年のほのぼのとした作品に思えるかもしれないし、確かに、ただ物語を追っているとそう思えるかもしれない。
しかし、この物語には「これからの世界で起きえる社会問題」が詰め込まれ、アタリ少年をガイド役として描かれている。
まず、20年後という時代設定。
具体的に何が起きるかといえば、2038年、世界人口が90億人(現在 76億人)を超えると言われている。
そうなると、多くの貧しい国で食糧難と疫病が蔓延し、多くの人々が貧困で生きていけなくなる。
その来るべき「人口爆発問題」を、この映画では犬で表現している。
その人口爆発に悩まされるのが、メガ崎市(メガシティというのは、巨大都市(ニューヨークや東京など)の意)である。
犬が増えすぎて困った市長は、犬たちを犬ヶ島に隔離してしまい、隔離された犬たちはわずかな食糧を奪い合って争い合う。
これは、2038年に人口爆発が起きた場合、増えすぎた人口に困った巨大都市は「ある人種のみ」を何かしら理由をつけて「隔離すること」を予言しているのだ。
それは、第二次大戦中のホロコーストや、南アフリカのアパルトヘイトのように。
そして、隔離された人々は、わずかな食糧を奪い合い、争い、殺し合うのだ。
このストップモーションアニメ「犬ヶ島」は、犬と少年の心温まる友情を描きながら、その背景では一部の人間のエゴにより人種隔離政策が行われることを予言し、その危機を救う少年と犬を主人公とした物語なのである。

現代の鬼は恐怖政治で国民を制圧する独裁者
そもそも「犬ヶ島」というタイトルから思い浮かべるのは、「鬼ヶ島」である。
そのタイトル通り、この物語はアタリ少年による「鬼退治」が描かれている。
そのアタリ少年のお供となるのが、犬ヶ島で出会った犬のチーフである。
そのチーフは、「誰の家臣でもない気位の高い浪人」そのものであり、黒沢映画に出てくる三船敏郎の影響を大きく感じるキャラクターになっている。
本来は「誰のものでもなかった孤高の犬」だったはずが、アタリと出会い、彼の優しさに触れ、やがてチーフは立派なアタリ少年の用心棒になるのである。
そのチーフのキャラクターを見ていると、これこそ、日本で映画化するべき作品だったと思わずにはいられないのである。
それでは、アタリ少年が退治すべき『鬼』とは、一体何なのか。
それは、権力を持ち、恐怖で国民をあおって制圧しようとする独裁者である。
この物語で言えば、「犬インフルエンザ」で市民に恐怖を植え付け、犬を隔離する宣言をした小林市長である。
小林市長は「犬インフルエンザによって人間が疫病にかかる可能性がある」という理由で犬たちを隔離してしまうが、本当は犬インフルエンザ治療薬も開発されていた。
しかし、小林市長はその治療薬の存在を隠ぺいし、市民に「犬インフルエンザが怖い。市長は犬インフルエンザから守ってくれる人」というイメージを植え付ける。
そうして、市民は「犬インフルエンザで死にたくない」から、小林市長の独裁政権に服従するのである。
小林市長自身は、犬たちを自分の政策に利用して、支持率を高めているのだ。
それは、かつてヒトラーが「ユダヤ人は劣った人種」として隔離し、人々に恐怖を植え付けて統制したのとまるで同じやり方である。
20年後の世界は、人口が爆発し、巨大都市には多くの人が溢れ、一部の富裕層の人間が「ある人種のみを隔離せよ」と言い出す時代がやってくる。
それは、既にアメリカで始まっていて、トランプ政権が「移民は国へ帰れ」と言って、自分たちの国土は壁で囲っている話とつながっている。
犬ヶ島で犬たちと仲良くなり「これからも犬たちと暮らしていきたい」と思ったアタリ少年は、犬たちを連れて小林市長の元へ抗議に行く。
実は小林市長はアタリ少年の養父であり、アタリ少年の話なら聞いてくれると思ったからだ。
アタリ少年は犬だけでなく、恐怖政治や隠ぺいなどから市民を救うことにもなる。
これはアタリ少年による鬼(=小林市長)退治なのだ。

犬ヶ島で暮らしている犬たちに教えられる「人間はみな平等である」ということ
恐怖政治で制圧されるメガ崎市と対照的に描かれるのが、犬ヶ島である。
そこは何の資源もなく、ゴミしかない不毛な土地である。
しかし、そんな場所であっても、犬たちは助け合って幸せそうに生きている。
犬ヶ島で暮らす犬たちはみな、色も柄も大きさも種類も、みんなバラバラである。
それでも、みんなが助け合って励まし合って生きている。
つまり、これは「犬だって、色が違ったって、種類が違ったって、みんな平等で助け合って生きているのに、なんで人間はできないのか」ということである。
その象徴となるのが犬のチーフである。
彼は初めは「真っ黒な犬」として登場する。
はじめは「チーフは黒い犬だ」と思って見ているが、途中で身体を洗うと実は「白い犬」だということが分かってくる。
しかし、周りにいる彼の友人たちは「黒い犬」が「白い犬」になったからといって態度が変わるわけではない。
それは当然のことだろう。
しかし、もしも、人間に同じことが起きたらどうだろうか。
初めは「黒人」だと思っていた人が、実は「白人」だったら。
出会ったころは、平気で彼に向って差別的な発言をしていたのに、ある日「白人」だと分かったら、それらの言葉を撤回するのだろうか。
これは、犬から見たら、肌の色が違っていたって、人間は同じ人間なのに、人間同士は「肌の色」によって態度を変えることを批判しているのだ。
彼らは、私たちに「みんなが平等で共に助け合って生きること」を示している。
肌の色が違っていたって、種類が違っていたって、同じ人間であり、平等なのだ。
そのことを、私たちは犬たちに教えられているのだ。

ウェス・アンダーソン監督が考える、諸悪の根源は家族にあり
アタリ少年が「犬ヶ島」に行き、犬たちに助けられながらスポッツと再会した結果、全ての悪の根源は養父の小林市長にあることを知り、アタリ少年は小林市長にこの恐怖政治をやめるように直談判に行く。
犬ヶ島でアタリ少年と知り合い、これまで「誰のものでもない」と言っていた、まるで浪人のようなチーフは、アタリ少年の用心棒となり、他の犬たちもアタリ少年についていく。
そして、アタリ少年の勇気ある行動に若者たちも賛同し、「犬たちの解放」を求める。
それには、はじめは聞く耳を持たなかった小林市長も、アタリ少年が病気になったことをきっかけに、父と息子の関係を改善し、犬を解放する。
そこには、ウェス・アンダーソン監督自身の「父親との関係」が反映されている。
先日、映画評論家の町山さんのトークショー「映画サーチライト」に参加した際、町山さんはウェス・アンダーソン監督の作品について
「ウェス・アンダーソン監督は8歳の時に両親が離婚して、父親が家を出てしまった。
彼の作品には、その時の影響が色濃く出ていて、全ての作品が父と息子の関係を描いたものなんです。」
とおっしゃっていた。
その話を聞いて、この結末にとても納得した。
犬たちを隔離し、市民に恐怖を植え付ける、まるでヒトラーのような独裁者の小林市長も「誰かの父親」であり、父性であることを自覚させれば、恐怖政治もやめるだろうと、ウェス・アンダーソン監督は考えているのだ。
全ての悪は「家族の関係」に起因していて、家族の関係を改善すれば、悪は減っていくだろうと、ウェス・アンダーソン監督は考えているのだろうと思った。
その理想の形はスポッツである。
スポッツは、それまで「アタリ少年を守ること」が仕事だったが、家族ができたことで、「もうアタリ少年の用心棒はできない。家族を守らなければいけないから」と言っている。
ウェス・アンダーソン監督は、生活の中心に「家族」があるべきだと考えているのだ。
家族がいて守るべきものがあれば、「悪」になるはずはない。
最近、こういう諸悪の根源は「家族の関係にあり」という映画が増えているような気がする。
毒親の影響で、暴力的になってしまった人を描いた作品「ビューティフル・デイ」も「アイ,トーニャ」などもその一つ。
全ての悪の根源は「家族にある」というのは大げさな気もするけど、「自信のなさからくるコンプレックスによる反動」とか、「暴力への考え方」というのは両親の影響もあると思うので、ウェス・アンダーソン監督の考え方もなきしもあらずだなと思った。
また、この映画には、人口爆発の問題や、人種差別の問題、家族の問題だけでなく、外国人の強制送還などについても考えさせられる。
そして、人間も犬たちのように、人種や肌の色に関わらず、みんな平等で仲良く生きられたらいいなぁとしみじみ思うのである。

「犬ヶ島」メイキング
★Twitterでも映画や海外ドラマの情報を発信しています~
toe@とにかく映画が好きなんです@pharmacy_toe
『犬ヶ島』面白かった!少年と一匹の浪人による鬼退治。現代社会における鬼とは一体何か。それを考えると、そこに根深い人間の悪が潜んでいる。犬たちのかわいさだけでも十分楽しめるけど、その裏で人口爆発、人種差別など現代の問題が描かれている https://t.co/e4L0yjdQBf
2018/04/25 22:32:39
↓ 人気ブログランキングに参加しています。クリックをお願いします

映画 ブログランキングへ

にほんブログ村

◆ネット配信で観る:「犬ヶ島」(字幕版)
![]() |
新品価格 |

◆DVDで観る:「犬ヶ島」
![]() |
犬ヶ島 [AmazonDVDコレクション] [Blu-ray] 新品価格 |

◆The Wes Anderson Collection: メイキングブック 犬ヶ島
![]() |
The Wes Anderson Collection: メイキングブック 犬ヶ島 新品価格 |

◆サウンドトラック「犬ヶ島」
![]() |
新品価格 |








コメント