ソル・ギョング主演の韓国映画「殺人者の記憶法」を試写会で観た。

かつて連続殺人犯、今は痴ほう症になってしまった初老の男性が、連続殺人犯と出会い、犯罪に巻き込まれていくサスペンス映画。


満足度 評価】:★★★★☆

痴ほう症の男性が主人公の映画だと聞いて、韓国映画らしく「暗くて重い」作品なのかと思っていたら、時折笑える場面もあって、予想外に楽しい「痴ほう症エンターテインメント」作品だった。

そして、なんといっても主役の痴ほう症の男性を演じたソル・ギョングの顔力に圧倒された。


この感想には、ラストシーンに関してのネタバレを含みます。映画をご覧になってからお読みください。

「殺人者の記憶法」予告編 動画

(原題:살인자의 기억법)




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キャスト&スタッフ


出演者

ソル・ギョング
…(「名もなき野良犬の輪舞(ロンド)」、「監視者たち」、「ソウォン/願い」、「ザ・スパイ シークレット・ライズ」など)

キム・ナムギル
…(「無頼漢 渇いた罪」、「パイレーツ」など)

〇キム・ソリョン(AOA)

オ・ダルス
…(「MASTER マスター」、「トンネル 闇に鎖(とざ)された男」、「国際市場で逢いましょう」、「朝鮮名探偵2 失われた島の秘密」、「朝鮮名探偵 トリカブトの秘密」、「7番房の奇跡」など)

監督

ウォン・シニョン
…(「サスペクト 哀しき容疑者」など)

2017年製作 韓国映画



殺人者の記憶法



あらすじ


60代で獣医のビョンス(ソル・ギョング)は、妻が失踪し、娘のウニ(キム・ソリョン)と二人暮らし。

しかし、彼は痴ほう症を患い、時折記憶が飛んでしまう。

そこで、ウニは「大切なことを忘れないために」と音声レコーダーを渡し、もらったビョンスは何かあるとレコーダーに話し記憶するようになった。

そんなビョンスがある日車を運転していると、前の車に衝突してしまう。

その車の運転手であるテジュ(キム・ナムギル)は、車に傷がついたにも関わらず「気にしなくて良い」と言いうのだが、ビョンスはその車のトランクから血が滴っていることに気付く。

それを見たビョンスは「テジュは殺人者だ」とレコーダーに残す。

なぜならば、ビョンスもまた、殺人者だったからだった…。



殺人者の記憶法2



感想(ネタバレあり)


凶悪な連続殺人犯は「痴ほう症」



これはサスペンス映画である。

主人公のビョンスは「気に食わない人間を見ると殺したくなる」という衝動を抑えられない凶悪な連続殺人犯である。

ここしばらくは殺人を犯していなかったのだが、若き連続殺人犯・テジュと出会うことで、ビョンスの中の「殺人者魂」がよみがえってくる。



どうやら、DNAに「殺人犯気質」が刷り込まれていたようだった。

ただし、彼には決定的な欠点がある。

それは、彼が「痴ほう症」を患っていることだった。



「痴ほう症」ということは、どういうことなのか。

つねに記憶があちこちに行ったり来たりする。

そのため、「目の前にいる人間を殺したい」と思った次の瞬間には、なぜ、そこにいるのかすら忘れてしまうこともある。

だから、観客は主人公の行動が読めず、先の展開が予想できない



さらに、私たちはお年寄りや「痴ほう症患者」に対して、つい同情してしまうところがある。

韓国では、日本以上に目上の人を敬う傾向にあるので(最近はそれも減少傾向にあると聞くけど)、その「同情心」がより強いのではと思う。

観客としては、主人公が凶悪な殺人者であると分かっているけど、痴ほう症を患っていることで「気の毒な人」に見えてしまい、次第に同情してしまう。

凶悪な連続殺人犯であるにも関わらずだ。



さらに、ビョンスはかわいい娘・ウニと二人暮らしであり、このウニがまたあり得ないぐらいに良い子なもんだから、ますます同情してしまう。

本来ならば、恐れるべき人なのに。



この「殺人者の記憶法」は、そんな痴ほう症の「記憶の危うさ」と「周りの人の同情心」をうまく逆手にとって、サスペンス映画に仕上げた驚くべき作品だった。

ただの殺人者だったら、ベテラン殺人者 VS 新米殺人者のサスペンスとなったところを、ベテラン殺人者が「痴ほう症」というエッセンスを加えたことで、切なさや同情心がわいてきて、「連続殺人犯も一人の人間だ」ということに気付かされるという、とても不思議な映画でもあった



殺人者の記憶法3


タブーを乗り越えろ!笑って楽しめる痴ほう症エンターテインメント!



しかし、「痴ほう症が主人公の物語」と聞くと「重くて暗い映画」なのではと思ってしまう。

私も、映画を観る前は、ポスターに写るソル・ギョングの顔面から感じる暗いイメージもあって「きっと重い映画なんだろう」と思っていた。



ところが、これが意外なことに、時折笑えるところもあるエンターテインメント作品に仕上がっていたのには驚いた



たしかに、痴ほう症の老人たちの行動は不可思議で、笑えるところも多々あるけれど「笑っては失礼」「笑いにしてはいけない」という「暗黙のタブー」のようなものが私たちの中にはある

この映画は、あえてその「タブー」を逆手に取り、時折笑える「痴ほう症エンターテインメント」に仕上げているのだ!!

それはもう、見事なまでに。



そして、先ども書いたように「彼は痴ほう症です」と聞くと、「あぁ気の毒に」と条件反射のように同情心が湧いてきてしまう



しかし、恐ろしいのは、「痴ほう症」になったからといって、連続殺人犯だった自分を忘れてしまうわけではなく、「人の殺し方」を体が覚えているというところである。

それは、たとえば、若い頃に大勢人を殺した殺人鬼が、逮捕されずに逃げおおせることができたけど、歳をとって痴ほう症になった頃、また「人殺し」を再開する可能性があるということである。

同情なんてしている場合じゃないのだ。

これには、原作小説があるようだけど、よく考えたなぁと思う。



つまり、ビョンスには、「微笑ましい痴ほう症患者という殻」の中に「凶悪な殺人犯」という内面があって「殺人者もまた人であり、歳をとれば他の人と同じように痴ほう症になるのだ」ということが分かってくる。

そしてそんなビョンスを観ている観客は、「凶悪な殺人者に同情してしまう」という、複雑な心境になっていくのだ。



殺人者の記憶法6


「不幸な家庭環境」が生んだ二人の連続殺人犯



しかし、このビョンス、殺人者になったのも、痴ほう症になったのにも理由があった。



彼は、幼い頃に父親から酷い暴力(DV)を受けていた

そんな彼が最初に殺したは「父親」だった。

それ以来、彼の父親のように「社会にとって害悪」となるような人間を見ると許せなくなり、殺しては竹林に埋めるようになった。



そのまま逮捕されることなく大人になったビョンスは結婚し、娘のウニが生れる。

しかし、彼の妻は浮気性であり、毎晩帰りが遅い。

そのことで口論になると、妻は「ウニの父親がビョンスではない」と告白する。

その妻の不貞行為が許せなかったビョンスは妻を殺し、いつものように竹林に埋めてしまう



その帰り道、彼は交通事故に遭い、頭を怪我した結果、痴ほう症になってしまうのだ。



つまり彼が殺人者になったのも、痴ほう症になってしまったのも、すべて「不幸な家庭環境」が招いたものだったのだ。

それもまた、観客がビョンスに同情する要素の一つとなった。

だからといって、ビョンスの過去を許すと言うわけではなく、「不幸な家庭環境」は犯罪者の温床になっているということをこの映画は訴えている



それを証拠に、同じく劣悪な家庭環境で育ったテジュもまた、凶悪な連続殺人犯の一人だからだ。



殺人者の記憶法4


テジュとの対決は、ビョンスの「連続殺人者だった自分」との決別



ベテラン殺人者・ビョンスと若手殺人犯・テジュは、表裏一体、お互いに鏡を見ているような似た者同士の関係である。

共に親からDVを受けるという不幸な環境で育ち、その結果、連続殺人犯となる。



ビョンスはテジュに「痴ほう症になる前の若かりし頃の自分」を見て、テジュはビョンスに「将来の自分」を見たはずだ。

だからこそ、お互いの手の内、次の一手が手に取るようにわかるのだ。



特に、痴ほう症になって、殺人を辞めていたはずのビョンスからしたら、テジュはビョンスにとって「捨て去りたい過去」だったのではと思う。

娘のウニは、そんなテジュにどことなく「父の面影」を見て、恋に落ちたのだろう。



だから、ビョンスにとってテジュ(=過去の自分)との戦いは「殺人者である自分との決別」を意味している

「殺人者」としての過去の自分を捨て去り、ただの「痴ほう症患者」になるのだ。

それは、ウニに「殺人者である」と告白することであり、逮捕されるということでもある。



しかし、ラストシーン。

真っ暗なトンネルを抜けたビョンスが「テジュはまだ生きている」と言う。

この終わり方について、韓国では「テジュは最初から存在しなかったのでは…」という解釈が拡散したのだという。

あくまでも、テジュはビョンスが頭の中で作り出した空想の人間なのだということらしい。



私はそうは思わなかった

そうではなく、ビョンスは殺人者だった自分との決別のためにテジュと対決したのだが、結局、彼のDNAに刻まれた殺人犯としての記憶を消し去ることはできなかったということなのではと思う。



暗いトンネルは、過去を示している。

ウニに全てを告白し、殺人犯として逮捕されたことで過去の暗いトンネルから抜けることはできたけど、彼の中にはまだ「殺人者としての記憶が残っている」ということであり、彼はまだ、「人を殺す可能性がある」ということなのだと思った。

人はそう簡単に生まれ変わることはできないのだ。

脳は忘れても、体は憶えている…。



殺人者の記憶法5


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