アカデミー賞で作品賞を受賞した映画「ムーンライト」を試写会で観た。
黒人の貧困層で育った少年が母親の依存症、育児放棄、そして自身のセクシャリティに悩みながら成長していく物語。
【満足度 評価】:★★★★☆(4.5)
主人公のシャロンはとても無口な少年で、時折放つ言葉には彼の強い思いが込められていた。
その彼の静けさが持つ「感情の温存」がとても良く、最後の最後に放った一言には思わず自然と涙が溢れてしまった。
映像の美しさと感情を描く繊細さがずば抜けて素晴らしい作品だった。
◆ネット配信で観る:「ムーンライト」(字幕版)
◆DVDで観る:「ムーンライト」スタンダード・エディション Blu-ray
◆「Moonlight」 - O.S.T.
…(「われらが背きし者」、「007 スカイフォール」など)
〇マハーシャラ・アリ
…(「スパイダーマン:スパイダーバース」(声の出演)、「アリータ:バトル・エンジェル」、「グリーンブック」、「キックス」、「ドリーム」、ドラマシリーズ「ルーク・ケイジ」、「ハウス・オブ・カード 野望の階段」など)
〇トレヴァンテ・ローズ
…(「ザ・プレデター」、「ホース・ソルジャー」など)
〇ジャネール・モネイ
…(「ドリーム」など)
〇アシュトン・サンダース
…(<出演作>「マネー・ショート」、「フューリー」、「ワールド・ウォー・z」、「イングロリアス・バスターズ」、<製作>「ビューティフル・ボーイ」、<製作総指揮>「オクジャ okja」など)ト
第89回アカデミー賞(2017年) 作品賞・脚色賞・助演男優賞 受賞作品
2016年製作 アメリカ映画

小学生のシャロンはマイアミにある貧困層の黒人たちが暮らす街で育った。
ある時シャロンは、学校の帰り道で同級生にいじめられ廃墟に逃げ込むが、そこは麻薬の密売が行われている場所だった。
その時、そこから助け出してくれたのはドラッグディーラーのフアン(マハーシャラ・アリ)だった。
それ以来、シャロンは薬物依存症で育児放棄を繰り返す母(ナオミ・ハリス)から逃げるようにフアンの家へと通うようになり…。

話は至ってシンプルな青春物語である。
少年シャロンが高校生になり初恋をする。
しかし、不運な事件があって好きな人と離れ離れになってしまう。
大人になってから再会するが、彼はうまく思いを伝えることができない…。
しかし、この映画がよくある青春映画と大いに違うのは、シャロンが育った環境だ。
少年シャロンは貧困層の黒人ばかりが暮らす街で母親と二人暮らしをしているが、母は薬物依存症である。
たびたび薬に溺れ、育児放棄をする母から逃げ、父親代わりとなるフアンの家に身を寄せるが、フアンはドラッグディーラーである。
貧困層、母子家庭、ドラッグ、薬物依存、育児放棄、家出…。
悲惨な生い立ちのオンパレード。
日本の子供たちとは明らかに違う世界がそこに描かれていた。
彼らが暮らす街では、小学生たちが歩いている道のど真ん中で昼間から普通にドラッグを売っている。
そして、またその側でジャンキーたちがドラッグを使用している。
シャロンの母親もそのジャンキーの1人。
そしてまた、シャロンはゲイだからという理由で同級生たちからイジメられる。
これは明らかに警察が見捨てた町。
「ドラッグは体に悪いからやめましょう」なんてスローガンは何の役にも立たない。
本気でやめるなら、全てを捨てて街を出なければならない。
そんな悲惨な環境を背景に、胸を締め付けられるような初恋の思いを奇跡の美しさで描いたのが、この「ムーンライト」という映画である。

本当に好きな人の前に立つと上手に話すことができない。
いつもの自分らしく接することができない。
きっとそんな経験は誰にも心当たりがあることだと思う。
なぜだろう。
本当に好きだという思いは、言葉にすることが難しい。
嫌いなことに関してははいくらでも言葉にできるのに。
主人公のシャロンは無口な青年だ。
言葉が少ないのは、心にある思いをうまく表現できないから。
1つ言葉を発しては、しばらく時間を置いて、気持ちをためてからまた言葉にする。
母親のことや、自分のセクシャリティのこと、日頃悩んでいることをうまく言葉にすることができない。
うまく言葉にできないのは、シャロンは人よりも繊細で、1つ1つの物事に対する思いが強いから。
私はそんなシャロンの無口がとても好きだった。
口で多くを語らない分、目が彼の思いを語る。
「目は口程に物を言う」のだ。
フアンを父親のように慕う気持ち、ケヴィンに対する愛情、母に対する恐れ。
シャロンを三世代に分けて描く中、それぞれ全く別の俳優が演じているにも関わらず、なんだか面影があるのは、三人とも同じ目をしているからだった。
それぐらい、この映画は「目の力」を非常に重要視した作品だった。

シャロンにとって幼少期に出会ったフアンの存在は大きかったと思う。
ドラッグ依存症で育児放棄(ネグレクト)の母親と二人暮らしのシャロン。
そんな中で出会ったフアンはシャロンの父親代わりだった。
いつも大きく包容力があり、シャロンを気遣ってくれる。
「自分はゲイかもしれない」と悩むシャロンを正面から受け止めてくれたのもフアンだった。
常にドラッグに溺れ、自分を罵るような母親と暮らしていたら、女性そのものを嫌ってしまうのも当然なのかもしれない。
海に連れていってくれ、泳ぎを教えてくれたフアン。
それ以来、シャロンは海が大好きな場所となる。
その後、フアンは亡くなってしまうが、シャロンはフアンのような男性を目指すようになる。
大人になったシャロンの行動を見ていると、フアンはシャロンにとって尊敬すべき父親のような存在だったんだろうなと思う。
そんなシャロンの姿も、この映画を切なくしている要素の1つだった。

高校生になると、シャロンは同級生のケヴィンに恋をする。
しかし、心を通わせたかと思った直後に離れ離れになってしまう。
ケヴィンに会うことができなかったシャロンだったが、数年経っても彼への思いは変わっていなかった。
それなのに、大人になっても無口なシャロンはその思いを伝えることができない。
その姿が非常に歯がゆく切ない。
そして、何時間も歯がゆい時間を過ごし、打ち解けた頃、シャロンは勇気を出して告白する。
このシャロンが心に募る思いを打ち明けたシーンで、私は「あぁ良かった」と思いホッとした。
うまく告白できない弟を、イライラしながら見守っている感じだろうか。
ムーンライトが照らす海辺での大切な一夜の思い出。
きっと、シャロンはあの時の幸せを胸に肉体改造をし、イジメられない身体を作り、厳しい社会を生き抜いてきたんだろう。
会えなかった間にいろいろあったことをイチイチ言わなくても、その思いが伝わる心のこもった告白だった。
その時のシャロンを観ながら、思わず涙が溢れてしまった。
それは、彼らの未来には幸があるに違いないと思えるラストシーンだった。
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◆ネット配信で観る:「ムーンライト」(字幕版)
◆DVDで観る:「ムーンライト」スタンダード・エディション Blu-ray
黒人の貧困層で育った少年が母親の依存症、育児放棄、そして自身のセクシャリティに悩みながら成長していく物語。
【満足度 評価】:★★★★☆(4.5)
主人公のシャロンはとても無口な少年で、時折放つ言葉には彼の強い思いが込められていた。
その彼の静けさが持つ「感情の温存」がとても良く、最後の最後に放った一言には思わず自然と涙が溢れてしまった。
映像の美しさと感情を描く繊細さがずば抜けて素晴らしい作品だった。
「ムーンライト」予告編 動画
(原題:Moonlight)◆ネット配信で観る:「ムーンライト」(字幕版)
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◆「Moonlight」 - O.S.T.
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キャスト&スタッフ
出演者
〇ナオミ・ハリス…(「われらが背きし者」、「007 スカイフォール」など)
〇マハーシャラ・アリ
…(「スパイダーマン:スパイダーバース」(声の出演)、「アリータ:バトル・エンジェル」、「グリーンブック」、「キックス」、「ドリーム」、ドラマシリーズ「ルーク・ケイジ」、「ハウス・オブ・カード 野望の階段」など)
〇トレヴァンテ・ローズ
…(「ザ・プレデター」、「ホース・ソルジャー」など)
〇ジャネール・モネイ
…(「ドリーム」など)
…(ドラマシリーズ「キャッスルロック」など)
〇アシュトン・サンダース
監督・脚本
〇バリー・ジェンキンス製作総指揮
〇ブラッド・ピット…(<出演作>「マネー・ショート」、「フューリー」、「ワールド・ウォー・z」、「イングロリアス・バスターズ」、<製作>「ビューティフル・ボーイ」、<製作総指揮>「オクジャ okja」など)ト
第89回アカデミー賞(2017年) 作品賞・脚色賞・助演男優賞 受賞作品
2016年製作 アメリカ映画

あらすじ
小学生のシャロンはマイアミにある貧困層の黒人たちが暮らす街で育った。
ある時シャロンは、学校の帰り道で同級生にいじめられ廃墟に逃げ込むが、そこは麻薬の密売が行われている場所だった。
その時、そこから助け出してくれたのはドラッグディーラーのフアン(マハーシャラ・アリ)だった。
それ以来、シャロンは薬物依存症で育児放棄を繰り返す母(ナオミ・ハリス)から逃げるようにフアンの家へと通うようになり…。

感想(ネタバレあり)
悲惨な現実を背景にした美しくも切ない初恋の物語
話は至ってシンプルな青春物語である。
少年シャロンが高校生になり初恋をする。
しかし、不運な事件があって好きな人と離れ離れになってしまう。
大人になってから再会するが、彼はうまく思いを伝えることができない…。
しかし、この映画がよくある青春映画と大いに違うのは、シャロンが育った環境だ。
少年シャロンは貧困層の黒人ばかりが暮らす街で母親と二人暮らしをしているが、母は薬物依存症である。
たびたび薬に溺れ、育児放棄をする母から逃げ、父親代わりとなるフアンの家に身を寄せるが、フアンはドラッグディーラーである。
貧困層、母子家庭、ドラッグ、薬物依存、育児放棄、家出…。
悲惨な生い立ちのオンパレード。
日本の子供たちとは明らかに違う世界がそこに描かれていた。
彼らが暮らす街では、小学生たちが歩いている道のど真ん中で昼間から普通にドラッグを売っている。
そして、またその側でジャンキーたちがドラッグを使用している。
シャロンの母親もそのジャンキーの1人。
そしてまた、シャロンはゲイだからという理由で同級生たちからイジメられる。
これは明らかに警察が見捨てた町。
「ドラッグは体に悪いからやめましょう」なんてスローガンは何の役にも立たない。
本気でやめるなら、全てを捨てて街を出なければならない。
そんな悲惨な環境を背景に、胸を締め付けられるような初恋の思いを奇跡の美しさで描いたのが、この「ムーンライト」という映画である。

無口だから、その思いを瞳にのせて
本当に好きな人の前に立つと上手に話すことができない。
いつもの自分らしく接することができない。
きっとそんな経験は誰にも心当たりがあることだと思う。
なぜだろう。
本当に好きだという思いは、言葉にすることが難しい。
嫌いなことに関してははいくらでも言葉にできるのに。
主人公のシャロンは無口な青年だ。
言葉が少ないのは、心にある思いをうまく表現できないから。
1つ言葉を発しては、しばらく時間を置いて、気持ちをためてからまた言葉にする。
母親のことや、自分のセクシャリティのこと、日頃悩んでいることをうまく言葉にすることができない。
うまく言葉にできないのは、シャロンは人よりも繊細で、1つ1つの物事に対する思いが強いから。
私はそんなシャロンの無口がとても好きだった。
口で多くを語らない分、目が彼の思いを語る。
「目は口程に物を言う」のだ。
フアンを父親のように慕う気持ち、ケヴィンに対する愛情、母に対する恐れ。
シャロンを三世代に分けて描く中、それぞれ全く別の俳優が演じているにも関わらず、なんだか面影があるのは、三人とも同じ目をしているからだった。
それぐらい、この映画は「目の力」を非常に重要視した作品だった。

尊敬する父親のようなフアンとの出会い
シャロンにとって幼少期に出会ったフアンの存在は大きかったと思う。
ドラッグ依存症で育児放棄(ネグレクト)の母親と二人暮らしのシャロン。
そんな中で出会ったフアンはシャロンの父親代わりだった。
いつも大きく包容力があり、シャロンを気遣ってくれる。
「自分はゲイかもしれない」と悩むシャロンを正面から受け止めてくれたのもフアンだった。
常にドラッグに溺れ、自分を罵るような母親と暮らしていたら、女性そのものを嫌ってしまうのも当然なのかもしれない。
海に連れていってくれ、泳ぎを教えてくれたフアン。
それ以来、シャロンは海が大好きな場所となる。
その後、フアンは亡くなってしまうが、シャロンはフアンのような男性を目指すようになる。
大人になったシャロンの行動を見ていると、フアンはシャロンにとって尊敬すべき父親のような存在だったんだろうなと思う。
そんなシャロンの姿も、この映画を切なくしている要素の1つだった。

何年経っても変わらない思い
高校生になると、シャロンは同級生のケヴィンに恋をする。
しかし、心を通わせたかと思った直後に離れ離れになってしまう。
ケヴィンに会うことができなかったシャロンだったが、数年経っても彼への思いは変わっていなかった。
それなのに、大人になっても無口なシャロンはその思いを伝えることができない。
その姿が非常に歯がゆく切ない。
そして、何時間も歯がゆい時間を過ごし、打ち解けた頃、シャロンは勇気を出して告白する。
このシャロンが心に募る思いを打ち明けたシーンで、私は「あぁ良かった」と思いホッとした。
うまく告白できない弟を、イライラしながら見守っている感じだろうか。
ムーンライトが照らす海辺での大切な一夜の思い出。
きっと、シャロンはあの時の幸せを胸に肉体改造をし、イジメられない身体を作り、厳しい社会を生き抜いてきたんだろう。
会えなかった間にいろいろあったことをイチイチ言わなくても、その思いが伝わる心のこもった告白だった。
その時のシャロンを観ながら、思わず涙が溢れてしまった。
それは、彼らの未来には幸があるに違いないと思えるラストシーンだった。
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