韓国映画「奴隷の島、消えた人々」をWOWOWで観た。
小さな島の塩田で起きた連続殺人事件の謎を追ったサスペンス映画。
【満足度 評価】:★★★☆☆(3.5)
映像が妙にリアルなので、実話なのかと思ったら、半分実話、半分フィクションというサスペンス映画だった。
ここに半分フィクションを入れ込んだことで、この映画から現在の韓国社会の問題点が浮き彫りになった。
本当の悪は誰なのか、問題点はどこにあるのか…。
この事件が起きた理由について考えてみた。
◆DVDで観る:「奴隷の島、消えた人」
◆ネット配信で観る:「奴隷の島、消えた人々」(字幕版)
〇ペ・ソンウ
…(「スウィンダラーズ」、「ザ・キング」、「大好きだから」、「造られた殺人」など)
〇イ・ヒョヌク
〇リュ・ジュンヨル
…(「沈黙、愛」、「タクシー運転手 約束は海を越えて」、「ザ・キング」など)
〇チェ・イルファ
2015年製作 韓国映画
ある島へ、障がい者たちを人身売買して強制労働させている塩田があるという噂を聞きつけ、取材に向かったTV局の報道記者・ヘリ(パク・ヒョジュ)とカメラマン(イ・ヒョヌク)だったが、その後、その島で複数の死体が発見され、ヘリは意識不明の重体で発見される。
その時、その島で何があったのか…。
警察は彼らが撮影したビデオテープを調査し始めるが…。
手持ちカメラで撮影された画面(POV)があまりにもリアルだったので、実話ではないかと思った作品だった。
この映画が面白いのは、全てが完全なフィクションではなく、半分が実話を参考にして作られ、そこへサスペンス要素を追加するという形で作られているところ。
だから、妙にリアルで生々しいところがあり、それでいてゾッとする話でもある。
実際にあった事件とは、2014年にあった「新安塩田奴隷労働事件」(しなん えんでん どれいろうどうじけん)。
多くの知的障がい者がブローカーによって人身売買され、新安にある小さな島にある塩田に送り込まれ、劣悪な環境の中、ただ働きをさせられていたことが発覚。
(参考:Wikipedia 新安塩田奴隷労働事件)
韓国で新安の塩といえばブランド品で、高級な天然塩として知られていたらしい。
この映画でいえば、賃金をもらわず、暖房もないような薄汚い小屋に住まわされ、履く靴下もないような生活をさせられている障がい者たち。
彼らの生活は、その事件を参考にしたのだと思われる。
主人公のジャーナリスト ヘリが、彼ら障がい者を取材するために島を訪れ、そのことについて近隣の農家や漁師たちにコメントを求めると、彼らは一切口をつぐんでしまう。
島民たちも、塩田の社長から口止めされていて、もしも脱走したら知らせるように言われていたのも、実際の事件と同じように作られている。
その島で、彼らが取材している最中に殺人事件が起きてしまう。
この連続殺人事件は、後から足したフィクションの部分である。
しかし、この殺人事件がなぜ起きたのかを考えてみると、島の人々の暮らしや、韓国社会の中に潜む問題点などが浮き彫りになってくる。

塩田での雇用問題は、実際にあった出来事を元にしているだけあって、貧困層の底辺にいる人たちの生活を如実に表している。
殺人事件が起きる前までは、最も悪いのは事業主だった。
彼はブローカーを使って障がい者たちを買い、塩田で不当にただ働きさせていた。
そもそも、これが実話だというんだから恐ろしい。
しかし、この「障がい者」をただ働きさせるというやり方は、どの国にも起きそうな問題であり、普通なら、障がい者の家族が気付いたり、近所の人たちの通報で発覚する。
ところが、この事業主にとって最も都合が良かったのは、その塩田が海に浮かぶ「小さな島」にあるということ。
定期船もなく、そこへは漁船を使って行くしかない。
そのため、その島にはブランド塩で儲けた事業主を頂点とする王国が出来上がってしまった。
当然、格差社会が問題視される韓国において、塩田以外の漁師や農家の人たちが、自分たちよりも高い地位にいる彼らを告発するなんてことはできない。
なぜなら、警察も事業主とグルになっているからだ。
彼らが間違っていると告発したところで、警察に、その事実をもみ消されてしまう。
となると、告発をして島を追い出されるぐらいなら、「見て見ぬふり」をすることが最善だと思うようになる。
その「警察と事業主の癒着」も、実際の塩田労働事件であった話である。
結局、一番悪いのは事業主だけれど、警察がその発覚を遅らせ、「見て見ぬふり」をした島民が事態を悪化させてしまった。

そして、この事態をさらに悪化させたのは、マスコミだった。
そもそも、ヘリの目的は塩田で強制労働させられている障がい者たちの取材だった。
そのことについて、サンホに話を聞き、その様子を録画したところで、一旦取材を終わらせればよかった。
ところが、そこからさらに奥へと突き進むのが、いかにも韓国のマスコミだという感じがした。
韓国のニュース映像を見ていると、芸能人が入院すれば病室まで行ったり、逮捕されたとなれば、警察の中まで押し寄せて本人から直接話を聞き出そうとしたり、明らかに行き過ぎで、容赦がない。
この事件が起きたのは、ヘリがサンホのIDを知り合いの刑事に問い合わせ、それが行方不明者のものだったことから起きている。
ヘリが、これまで「サンホ」という殻の中で生きていた殺人鬼を揺さぶり起こしてしまったのだ。
むしろ、へりはそれが良いことだと思っていたし、「これでサンホが救われる」と思っていただろうと思う。
しかし、事業主の家に不法侵入して得たIDは、カメラマンの死という思わぬ悲劇を生むことになる。
ここには、現在の韓国での行き過ぎたマスコミの取材への批判が込められているのではと感じた。
時には、やり過ぎた取材がパンドラの箱を開けてしまうこともある。
取材とは、もっと慎重であるべきなのだ。
もしも、もっと慎重にサンホに近づいていたら、誰も被害に遭うことなくサンホを逮捕できたのかもしれない。

ここで、ヘリが意識不明の重体になってしまったことで、さらにネチズン(韓国のネット市民)が事態を悪化させる。
関係者は全員死んでしまい、サンホは行方不明になってしまったことで、ヘリ以外、誰も事件の真相を知らないからだ。
そこで、ネチズンは勝手に予想を始める。
その『勝手な予想』が韓国内に拡散され、最終的には『美しすぎる殺人鬼』として、ヘリが連続殺人犯だという噂に落ち着いてしまう。
その「ネチズンが世論を勝手に誘導する」というところも、現在の韓国の一面を感じさせる。
日本以上に『熱しやすく冷めやすい』と言われるネチズンたちは、1つの出来事に熱中して炎上させ、中にはそれがきっかけで自殺者が出てしまうこともある。
現在、韓国で一番問題視されている格差社会の中で、底辺ともいえる障がい者たちを不当に強制労働させていた事業主がいて、そこと癒着している警察官と近隣住民が「見て見ぬふり」をし、事態を悪化させる。
さらに、そこで明らかに行き過ぎた取材をしたジャーナリストがパンドラの箱を開け、連続殺人事件が起きる。
そして、そこから間違った情報がネチズンによって独り歩きする…。
ここで起きた問題の全てが、現在の韓国の社会問題とつながっている。
格差社会も、過熱報道するマスコミも、熱狂するネチズンたちも、全てが問題を悪化させることになった。
そして、何よりここまで問題を悪化させてしまったのは、「見て見ぬふり」をした地域住民である。
この映画を通してわかるのは、犯人はサンホだけではなく、事業主だけでもない。
この構造を作り出した社会そのものに問題があって、目撃した人も、それを伝えるマスコミも、勝手に噂を拡散させるネチズンにも責任があるということ。
だから私は、この事件が『起きるべくして起きた事件』なんだと思った。
何か悪事が起きていたら、どんな理由があっても通報するべきだし、警察が癒着していると知っているなら、他の機関に通報すれば良い。
島民にとって、『島の生活が世界の全て』になってしまったことが、この不幸の始まりである。
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◆ネット配信で観る:「奴隷の島、消えた人々」(字幕版)
小さな島の塩田で起きた連続殺人事件の謎を追ったサスペンス映画。
【満足度 評価】:★★★☆☆(3.5)
映像が妙にリアルなので、実話なのかと思ったら、半分実話、半分フィクションというサスペンス映画だった。
ここに半分フィクションを入れ込んだことで、この映画から現在の韓国社会の問題点が浮き彫りになった。
本当の悪は誰なのか、問題点はどこにあるのか…。
この事件が起きた理由について考えてみた。
「奴隷の島、消えた人々」予告編 動画
(原題:섬. 사라진 사람들.)◆DVDで観る:「奴隷の島、消えた人」
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キャスト&スタッフ
出演者
〇パク・ヒョジュ〇ペ・ソンウ
…(「スウィンダラーズ」、「ザ・キング」、「大好きだから」、「造られた殺人」など)
〇イ・ヒョヌク
〇リュ・ジュンヨル
…(「沈黙、愛」、「タクシー運転手 約束は海を越えて」、「ザ・キング」など)
〇チェ・イルファ
監督・脚本
〇イ・ジスン2015年製作 韓国映画

あらすじ
ある島へ、障がい者たちを人身売買して強制労働させている塩田があるという噂を聞きつけ、取材に向かったTV局の報道記者・ヘリ(パク・ヒョジュ)とカメラマン(イ・ヒョヌク)だったが、その後、その島で複数の死体が発見され、ヘリは意識不明の重体で発見される。
その時、その島で何があったのか…。
警察は彼らが撮影したビデオテープを調査し始めるが…。

感想(ネタばれあり)
半分実話、半分フィクションという面白さ
手持ちカメラで撮影された画面(POV)があまりにもリアルだったので、実話ではないかと思った作品だった。
この映画が面白いのは、全てが完全なフィクションではなく、半分が実話を参考にして作られ、そこへサスペンス要素を追加するという形で作られているところ。
だから、妙にリアルで生々しいところがあり、それでいてゾッとする話でもある。
実際にあった事件とは、2014年にあった「新安塩田奴隷労働事件」(しなん えんでん どれいろうどうじけん)。
多くの知的障がい者がブローカーによって人身売買され、新安にある小さな島にある塩田に送り込まれ、劣悪な環境の中、ただ働きをさせられていたことが発覚。
(参考:Wikipedia 新安塩田奴隷労働事件)
韓国で新安の塩といえばブランド品で、高級な天然塩として知られていたらしい。
この映画でいえば、賃金をもらわず、暖房もないような薄汚い小屋に住まわされ、履く靴下もないような生活をさせられている障がい者たち。
彼らの生活は、その事件を参考にしたのだと思われる。
主人公のジャーナリスト ヘリが、彼ら障がい者を取材するために島を訪れ、そのことについて近隣の農家や漁師たちにコメントを求めると、彼らは一切口をつぐんでしまう。
島民たちも、塩田の社長から口止めされていて、もしも脱走したら知らせるように言われていたのも、実際の事件と同じように作られている。
その島で、彼らが取材している最中に殺人事件が起きてしまう。
この連続殺人事件は、後から足したフィクションの部分である。
しかし、この殺人事件がなぜ起きたのかを考えてみると、島の人々の暮らしや、韓国社会の中に潜む問題点などが浮き彫りになってくる。

警察との癒着、島民の「見て見ぬふり」が事態を悪化させる
塩田での雇用問題は、実際にあった出来事を元にしているだけあって、貧困層の底辺にいる人たちの生活を如実に表している。
殺人事件が起きる前までは、最も悪いのは事業主だった。
彼はブローカーを使って障がい者たちを買い、塩田で不当にただ働きさせていた。
そもそも、これが実話だというんだから恐ろしい。
しかし、この「障がい者」をただ働きさせるというやり方は、どの国にも起きそうな問題であり、普通なら、障がい者の家族が気付いたり、近所の人たちの通報で発覚する。
ところが、この事業主にとって最も都合が良かったのは、その塩田が海に浮かぶ「小さな島」にあるということ。
定期船もなく、そこへは漁船を使って行くしかない。
そのため、その島にはブランド塩で儲けた事業主を頂点とする王国が出来上がってしまった。
当然、格差社会が問題視される韓国において、塩田以外の漁師や農家の人たちが、自分たちよりも高い地位にいる彼らを告発するなんてことはできない。
なぜなら、警察も事業主とグルになっているからだ。
彼らが間違っていると告発したところで、警察に、その事実をもみ消されてしまう。
となると、告発をして島を追い出されるぐらいなら、「見て見ぬふり」をすることが最善だと思うようになる。
その「警察と事業主の癒着」も、実際の塩田労働事件であった話である。
結局、一番悪いのは事業主だけれど、警察がその発覚を遅らせ、「見て見ぬふり」をした島民が事態を悪化させてしまった。

行き過ぎたマスコミが最悪の悲劇を生んでしまう
そして、この事態をさらに悪化させたのは、マスコミだった。
そもそも、ヘリの目的は塩田で強制労働させられている障がい者たちの取材だった。
そのことについて、サンホに話を聞き、その様子を録画したところで、一旦取材を終わらせればよかった。
ところが、そこからさらに奥へと突き進むのが、いかにも韓国のマスコミだという感じがした。
韓国のニュース映像を見ていると、芸能人が入院すれば病室まで行ったり、逮捕されたとなれば、警察の中まで押し寄せて本人から直接話を聞き出そうとしたり、明らかに行き過ぎで、容赦がない。
この事件が起きたのは、ヘリがサンホのIDを知り合いの刑事に問い合わせ、それが行方不明者のものだったことから起きている。
ヘリが、これまで「サンホ」という殻の中で生きていた殺人鬼を揺さぶり起こしてしまったのだ。
むしろ、へりはそれが良いことだと思っていたし、「これでサンホが救われる」と思っていただろうと思う。
しかし、事業主の家に不法侵入して得たIDは、カメラマンの死という思わぬ悲劇を生むことになる。
ここには、現在の韓国での行き過ぎたマスコミの取材への批判が込められているのではと感じた。
時には、やり過ぎた取材がパンドラの箱を開けてしまうこともある。
取材とは、もっと慎重であるべきなのだ。
もしも、もっと慎重にサンホに近づいていたら、誰も被害に遭うことなくサンホを逮捕できたのかもしれない。

地域住民、格差社会、マスコミ、ネチズン…この事件を悪化させた人たち
ここで、ヘリが意識不明の重体になってしまったことで、さらにネチズン(韓国のネット市民)が事態を悪化させる。
関係者は全員死んでしまい、サンホは行方不明になってしまったことで、ヘリ以外、誰も事件の真相を知らないからだ。
そこで、ネチズンは勝手に予想を始める。
その『勝手な予想』が韓国内に拡散され、最終的には『美しすぎる殺人鬼』として、ヘリが連続殺人犯だという噂に落ち着いてしまう。
その「ネチズンが世論を勝手に誘導する」というところも、現在の韓国の一面を感じさせる。
日本以上に『熱しやすく冷めやすい』と言われるネチズンたちは、1つの出来事に熱中して炎上させ、中にはそれがきっかけで自殺者が出てしまうこともある。
現在、韓国で一番問題視されている格差社会の中で、底辺ともいえる障がい者たちを不当に強制労働させていた事業主がいて、そこと癒着している警察官と近隣住民が「見て見ぬふり」をし、事態を悪化させる。
さらに、そこで明らかに行き過ぎた取材をしたジャーナリストがパンドラの箱を開け、連続殺人事件が起きる。
そして、そこから間違った情報がネチズンによって独り歩きする…。
ここで起きた問題の全てが、現在の韓国の社会問題とつながっている。
格差社会も、過熱報道するマスコミも、熱狂するネチズンたちも、全てが問題を悪化させることになった。
そして、何よりここまで問題を悪化させてしまったのは、「見て見ぬふり」をした地域住民である。
この映画を通してわかるのは、犯人はサンホだけではなく、事業主だけでもない。
この構造を作り出した社会そのものに問題があって、目撃した人も、それを伝えるマスコミも、勝手に噂を拡散させるネチズンにも責任があるということ。
だから私は、この事件が『起きるべくして起きた事件』なんだと思った。
何か悪事が起きていたら、どんな理由があっても通報するべきだし、警察が癒着していると知っているなら、他の機関に通報すれば良い。
島民にとって、『島の生活が世界の全て』になってしまったことが、この不幸の始まりである。
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