ダニエル・デイ=ルイス主演の映画「ファントム・スレッド」を特別上映会で観た。

ロンドンでドレスを作り続ける気難しいデザイナーのウッドコックと、彼にとって完ぺきな体系を持つアルマの恋を描く。


満足度 評価】:★★★★☆(4.5)

サスペンスあり、ラブロマンスあり、先の展開が読めない面白い映画だった。

私はアルマ側の女性目線でこの映画を観て、私の中に眠っている支配欲に気付かされてしまうすごい映画だった。


「ファントム・スレッド」予告編 動画

(原題:Phantom Thread)




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キャスト&スタッフ


…(「リンカーン」など)

〇ヴィッキー・クリープス



監督

〇ポール・トーマス・アンダーソン


2017年製作 アメリカ映画



ファントム・スレッド





あらすじ


ロンドンでドレスを作る仕立て屋のウッドコック(ダニエル・デイ=ルイス)は、休暇のために訪れた田舎町で完ぺきな体系を持つ女性 アルマ(ヴィッキー・クリープス)と出会う。

そのまま、アルマはロンドンへ行き、ウッドコックの手伝いをするようになるが、仕事に関しては完璧主義者で気難しいウッドコックは、仕事に夢中になるとアルマを一切気遣わないようになる。

次第に、そんなウッドコックに不満を持ち始めるアルマは、ウッドコックの関心を自分に向けさせようとあの手この手を使うようになるのだが…。



ファントム・スレッド5





感想(ネタバレあり)


完璧主義な仕事人間であり、マザコンで監視係の小姑付き



完璧主義の仕事人間はやっかいだ。

平気で私生活に仕事を持ち込み、常にピリピリし、仕事がうまくいかなければ不機嫌になる

それはよく言う「仕事が恋人」というタイプだ。



そんな人は結婚してはいけない

なぜなら、結婚相手は『仕事』という恋人に絶対勝てないからだ。

常に「心ここにあらず」で、その人が立派に仕事を成し遂げるのを支えることに喜びを感じるのなら、結婚してもいいと思うが、それならそれなりの覚悟が必要である。



この映画の主人公ウッドコックは、そんなタイプの完璧主義の仕事人間である。

そんな自分のことをウッドコック本人も理解しているのだろうし、誰も彼についていけないため、彼は独身を貫いている。

そのウッドコックにモデルになる才能を見出されたアルマは、はじめのうちは彼と彼の仕事に自分の全てを捧げることに喜びを感じていた。

しかし、そのうち彼が自分に見向きもせず、仕事にばかり心を費やすことが不満になってくる



その上、彼は精神的な拠り所を亡くなった母親に求め続け、身の回りの世話を姉に任せている

つまり、彼は完璧主義の仕事人間だけでなく、マザコンな上に、監視係の小姑付きなのだ。

もうそうなったら、アルマがウッドコックの視界に入る余地がない。



だったらいっそのこと諦めてウッドコックの元から去るべきなのか…。

しかし、アルマは諦めずに側に居座り続け、ある時、ウッドコックを支配できる方法を見つけ出したのだ。



この物語は、アルマとウッドコックの壮大な恋愛物語であるけれど、サスペンスでもある

とても華やかでゴージャスなファッション業界の裏側で起きている、その表側の豪華さとは対照的で先の展開が予想できない物語で、男女の本質に迫る作品だった。



ファントム・スレッド4




アルマのライバルは亡き母の亡霊



まず、アルマが乗り越えなければいけない壁は、「亡くなった母の亡霊」と常に側にいて監視している姉である。



これは、ウッドコック特有のものではない。

多くの男性は少なからずマザコンだし、姉と弟の間に割り込めない異様な関係がある姉弟などこの世にたくさんいる。



そんなウッドコックに対して正面突破しようとしてもダメだ。

姉にはじかれ、そこを乗り越えたとしても母の亡霊は何よりも強力だ。

そもそも、この貫禄たっぷりの姉の存在感たるや、そこにいるだけで恐ろしい。



そもそも、彼が仕立て屋の仕事をしているのは、お母さんのためにドレスを塗ったことからスタートしている

だから、彼がドレスのことを考え、針と糸で縫物をしている間は、常に亡霊の母親が彼を見守っているに違いない。

姉にしても同じで、彼女は顧客の管理から仕事のスケジュールまで、ウッドコックの仕事の全てを握っている。



ということは、もしも、アルマがウッドコックを本気で「自分だけのものにしたい」と思うなら、ウッドコックを仕事から引き離さなければいけないのだ。

彼を仕事から引き離し、2人きりになった時こそが、アルマが母の亡霊を乗り越え、自分の手の中に収めることができる瞬間なのだ。

それは思いもよらぬ時にやってきて、アルマが仕事も亡霊も姉をも乗り越え、彼の全てを支配できるこことに気付いたのだ。



ファントム・スレッド2




彼を仕事から引き離し支配する瞬間が最も幸せなとき



アルマもウッドコックの側にいて、一年中孤独なわけではない。

ウッドコックがコレクションのために、長い時間を仕事に尽くした後、「何も仕事をしないで過ごす」時間がやってくる。

仕事以外は何もできないウッドコックは、オフの時は子供のようになってしまう。

そんな彼を「あやしている」時間は、とても幸せを感じ、それこそが、ウッドコックを手中に収めることができる時間だったのだ。



それは、アルマは子供になったウッドコックを独り占めできる時間であり、アルマが母性を思う存分発揮できる時間でもあった

しばらく、そうして母性を発揮したアルマは心を満たされた日々を過ごすが、やがてまたウッドコックは「仕事が恋人」の世界へ戻っていってしまう。



そんな日々に耐えられなくなったアルマだったが、やがて仕事の合間以外に、強制的に「ウッドコックを独り占めする時間」を作り出す方法を思いつく

この方法があまりにも危険で恐ろしかったので、のけぞってしまった。



しかし、アルマの気持ちも共感できる

そこにあるのは「彼を独り占めしたい」という支配欲であり、「私が世話しなきゃ」という母性本能である



あれほどまでに、仕事しか頭になかった人を自分が独り占めしているという喜び

そこには、母の亡霊も、怖い姉もいない

その方法は、あまりにも恐ろしいものかも知れないけれど、世界から注目されている仕事をしている彼を支配しているんだという快感は、何事にも変えられないものだと思う。



その方法を思いついたアルマは、しばしば、ウッドコックを地獄に突き落とすようになり、彼はそんなアルマに完全降伏してしまうのだ。



ファントム・スレッド3




「彼を理解できるのは私だけ」という支配欲が満たされた時の快感



田舎の小さな町をたまたま訪れたウッドコックに見初められ、やがてファッション業界という華やかな世界でモデルとして生きるようになり、今まで着たこともないようなドレスを着て、もう田舎に帰ることなど考えられなくなったアルマは、なんとしてでも、ウッドコックを振り向かせなければと思った。



その時、弱ったウッドコックに対して思う存分母性を発揮し、彼の全てを支配できる方法を思いてしまったのだ。

私がこの映画を恐ろしいと思ったのは、そんなアルマの「恐ろしさ」に共感できるところだった。



だからといって、今から毒キノコの研究をするというわけではない。

他の人が見たこともないような「弱った彼」を導き出す方法を思いつき、そのことによって彼を支配した時の快感といったら、他のものには変えられないほどの達成度があるはずだ。

「私がいなければ彼はいきていけない」という瞬間がなにより気持ちが良いのだ。



それは、「美女と野獣」で、みんなが恐れる野獣の心優しい一面を見たベルが「心優しい彼を知っているのは私だけ」と思い、彼には私しかいないと感じ、恋に落ちてしまった気持ちと一緒である。

恐らく、多くの女性が、アルマの「彼の面倒を見られるのは私だけ」という気持ちに共感できるはずだ。



私がこの映画を映画館で観た時は、上映後に映画評論家の町山さんのトークショーがあり、その中で、ポール・トーマス・アンダーソン監督のインタビュー動画が流れたのだが、その時、監督はこの映画について「自分がインフルエンザになった時、看病をしてくれた妻がとても幸せそうだった」ことがきっかけで、この映画を作ることになったと話していた。

また、この映画を最後に引退宣言したダニエル・デイ=ルイスは、役に入り込むことで有名な俳優である。

その彼も、この映画に出演したことでウッドコックという役に入り込みすぎてしまい、「自分も仕事中心の生活をしてきて、家族のことをないがしろにしてきた。これからは映画界から引退して家族中心の生活にする」と言って引退宣言してしまったそう。

(だから、役が抜けたら戻ってくるのでは…という話でもあった(笑))



もしも、いつも、家に帰っても仕事のことばかり考えて、家族のことをおざなりにしている人がいるののなら、その生活を改めた方が良い

さもないと、いつウッドコックと同じような状態にならないとも限らないからだ。

女性たちは笑顔の裏側で、パートナーを支配できる瞬間を手ぐすね引いて待っているのだから。







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