ハ・ジョンウ主演の韓国映画「トンネル 闇に鎖(とざ)された男」を映画館で観た。
ある時突然起きたトンネル崩落事故。そこに閉じ込められた男性のサバイバルを描くパニック映画。
【満足度 評価】:★★★★☆
次から次へと崩落していくトンネルの恐ろしさも面白かったが、その事故に対して何も有益なことをしようとしない政府、どんな小さなことでもネタにしようと待ち構えるマスコミ、被害者なのにひたすら頭を下げ続ける妻など、その周りの人たちの反応の描写が非常に興味深かった。
彼らの様子を見ていると、なぜ韓国でセウォル号事故が起きたのかが分かる気がする。
◆ネット配信で観る:「トンネル 闇に鎖された男」(字幕版)
◆DVDで観る:「トンネル 闇に鎖された男」
…(「1987、ある闘いの真実」、「お嬢さん」、「群盗」、「テロ、ライブ」、「ラブ・フィクション」、「ベルリンファイル」、「チェイサー」など)
〇ペ・ドゥナ
…(「ジュピター」など)
〇オ・ダルス
…(「朝鮮名探偵3 鬼(トッケビ)の秘密」、「殺人者の記憶法」、「MASTER マスター」、「国際市場で逢いましょう」、「朝鮮名探偵2 失われた島の秘密」、「朝鮮名探偵 トリカブトの秘密」、「7番房の奇跡」など)
〇キム・ヘスク
…(「黄泉がえる復讐」、「王の運命(さだめ) 歴史を変えた八日間」、「善惡の刃」、「お嬢さん」、「ソウォン/願い」、「カンチョリ オカンがくれた明日」など)
…(「最後まで行く」など)
2016年制作 韓国映画

車のセールスマンをしているイ・ジョンス(ハ・ジョンウ)は、車で自宅に帰る途中に突然トンネルが崩落する事故に遭遇してしまう。
前も後ろも土砂で埋まってしまい、身動きがとれなくなってしまう。
その時に持っていたのはペットボトルに入った水が2本と娘のために買ったバースデイケーキ。
携帯電話は電波が弱いながらかろうじて通じる状態なのだが、充電の残りは78%。
そこから救急電話をかけて救助を要請したのだが…。
ある日突然起きたトンネルの崩落事故。
原因を調査した結果、打ち込まれているはずのボルトが打たれていないなど、利益優先の手抜き工事だったことが発覚。
そこから、その事故は起こるべくして起きた人災だったことが分かる。
そういえば、最近、同じような映画を観たなぁ…と思ったら、マーク・ウォルバーグ主演の「バーニング・オーシャン」だった。
「バーニング・オーシャン」は、石油採掘工事の際に安全テストを怠ったために起きた火災事故を描いていて、こちらも人災の映画だった。
ただし、「バーニング・オーシャン」は実話で、この映画はフィクションという違いはあるけれど。
トンネルの中に閉じ込められた主人公のイ・ジョンスのライフラインは、ペットボトルの水2本、バースデイケーキ一つ、充電78%の携帯電話のみ。
本来ならば、真っ先にこのトンネルを建設した建築会社と設計会社が呼ばれて、このトンネルを最もよく知る者たちで、最も早い救出方法を探るべきなのに、彼らが全く登場しないのがとても不思議だった。
それは、韓国では当たり前のことなのか。
その分、彼の帰りを待つ妻、なんとか救い出そうと思う救助隊、何も有益なことをしようとしない政府、衝撃映像を待ち構えるハイエナのようなマスコミの姿などの描写に重点が置かれ、政府の無能さが浮き彫りにされる。
ということは、事故の責任は建設会社よりも、政府にあるということなのか。
それとも、建設会社は政府の庇護の元、責任を問われないということなのか…。
その辺に韓国の社会事情が見えるような気がした。

そんな中、私が最もグッと来たのは、ペ・ドゥナ演じる主人公の妻セヒョンだった。
この事故で最も悲惨な目に遭っている被害者はイ・ジョンスである。
セヒョンは被害者の妻である。
にも関わらず、もっとも申し訳なさそうにしているのがセヒョンである。
救助隊のメンバーたちに頭を下げ、彼らのために食事の準備をする。
夫が帰ってくるまで、文句も言わずおとなしく待っている。
そんな彼女の姿に胸が締め付けられたし、彼女を見ているだけで泣けて仕方がなかった。
同じ極東アジアで暮らす民族の日本人からしたら、そんなセヒョンの「申し訳なさそうな態度」も普通に見えてしまうかもしれない。
しかし、彼女は被害者である。
なぜ被害者の彼女がそこまで卑屈にならなければいけないのか。
前述した「バーニング・オーシャン」では、ケイト・ハドソンが主人公の妻を演じていたが、まるで違う。
ケイト・ハドソンは思いつく限り手あたり次第電話をかけ、夫が無事かどうなのかをひたすら確認し続ける。
そして、帰ってきた夫と水入らずで過ごすためのホテルまで用意されていた。
セヒョンはもっと声を大に訴えても良かったし、マスコミを利用して作業を急がせることだってできたはずだ。
しかし、そうではない「つつましい妻」の描き方に、極東アジアの国々が期待する「妻として女性像」を見た気がした。

そして、この映画を観ていて嫌でも思い出したのが、2014年4月に起きたセウォル号沈没事故である。
なぜならば、セウォル号沈没事故も利益重視で規定を大幅に上回る過積載をしたために起きた人災だったからだ。
その後、造船会社や運航会社だけでなく、救助が遅れたことや国の対応が問題視され、そこから朴槿恵元大統領の失墜が始まっていった。
さらに、それからしばらく手抜き工事が原因と思われる道路の陥没や電車の衝突事故などが続き、韓国の安全対策の在り方が問われるようになる。
その中で制作されたこの映画「トンネル 闇に鎖(とざ)された男」があの事故と無関係なはずがない。
例えば救助隊。
主人公、イ・ジョンスの通報で駆け付けたは良かったが、彼を救出するのに一ヶ月という果てしない日数がかかっている。
しかも、途中で諦めようとしている。
これはちょっと日本では考えられない。
日本だったら現場の救助隊が自衛隊の応援を要請し、遅くとも2~3日で救助できたはずだ。
これが韓国の救助隊の「遅さ」を表し、その結果、助かるはずの人が亡くなってしまう。
さらに、埋まっているはずのボルトがなかったり、7基あるはずの送風機が6基しかないという手抜き工事も発覚。
これが「韓国の公共事業の実態」なのだ。
これは「もしもトンネル崩落事故が起きたら」というシミュレーションの映画であるが、公共工事のずさんさと、救助作業の遅さにより、助かるはずの人が助からないことを暗示している。

もちろん、被害者を増やす要因は公共工事のずさんさや救助隊の遅さだけではない。
この映画の中で、キム・ヘスク演じる大臣は、無能な政府の象徴として登場する。
彼女は救助隊に対して「早く救助しろ」というだけで、具体的な対策は何一つ出さない。
ただ沈痛な表情を見せながらマスコミの前に登場し、「悲しんでいる大臣」を演じきる。
決して大声でしゃべろうとせず、言いたいことは周りにいる役人たちにささやくのみである。
「沈痛な表情を演じきり、マスコミの前で余計な言葉を発しない」という彼女のマスコミ対策は完璧である。
しかし、大臣が来るというだけで現場の人たちの手が止まるのなら、彼女の存在はハッキリ言って無駄である。
それもそのはず、彼女はマスコミの前で支持率アップのための演技をするためだけに現場に登場するのである。
そして、現場では一刻も早く救出が待たれる人がいるというのに、大臣出席の元、意味のない「現状報告のみの会議」が開かれる。
一体、それは誰のための会議なのだろうか。
生きている人がトンネルの中に埋まっているというのに。
利益重視のために手抜きの公共工事が行われ、救助隊の作業は遅々として進まず、政府は支持率アップのための演出に必死になっている。
それこそが、韓国社会の機能していない「安全対策」メカニズムなのである。
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ある時突然起きたトンネル崩落事故。そこに閉じ込められた男性のサバイバルを描くパニック映画。
【満足度 評価】:★★★★☆
次から次へと崩落していくトンネルの恐ろしさも面白かったが、その事故に対して何も有益なことをしようとしない政府、どんな小さなことでもネタにしようと待ち構えるマスコミ、被害者なのにひたすら頭を下げ続ける妻など、その周りの人たちの反応の描写が非常に興味深かった。
彼らの様子を見ていると、なぜ韓国でセウォル号事故が起きたのかが分かる気がする。
「トンネル 闇に鎖(とざ)された男」予告編 動画
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キャスト&スタッフ
出演者
〇ハ・ジョンウ…(「1987、ある闘いの真実」、「お嬢さん」、「群盗」、「テロ、ライブ」、「ラブ・フィクション」、「ベルリンファイル」、「チェイサー」など)
〇ペ・ドゥナ
…(「ジュピター」など)
〇オ・ダルス
…(「朝鮮名探偵3 鬼(トッケビ)の秘密」、「殺人者の記憶法」、「MASTER マスター」、「国際市場で逢いましょう」、「朝鮮名探偵2 失われた島の秘密」、「朝鮮名探偵 トリカブトの秘密」、「7番房の奇跡」など)
〇キム・ヘスク
…(「黄泉がえる復讐」、「王の運命(さだめ) 歴史を変えた八日間」、「善惡の刃」、「お嬢さん」、「ソウォン/願い」、「カンチョリ オカンがくれた明日」など)
監督・脚本
〇キム・ソンフン…(「最後まで行く」など)
2016年制作 韓国映画

あらすじ
車のセールスマンをしているイ・ジョンス(ハ・ジョンウ)は、車で自宅に帰る途中に突然トンネルが崩落する事故に遭遇してしまう。
前も後ろも土砂で埋まってしまい、身動きがとれなくなってしまう。
その時に持っていたのはペットボトルに入った水が2本と娘のために買ったバースデイケーキ。
携帯電話は電波が弱いながらかろうじて通じる状態なのだが、充電の残りは78%。
そこから救急電話をかけて救助を要請したのだが…。

感想(ネタバレあり)
利益優先の工事が引き起こす恐るべき人災事故
ある日突然起きたトンネルの崩落事故。
原因を調査した結果、打ち込まれているはずのボルトが打たれていないなど、利益優先の手抜き工事だったことが発覚。
そこから、その事故は起こるべくして起きた人災だったことが分かる。
そういえば、最近、同じような映画を観たなぁ…と思ったら、マーク・ウォルバーグ主演の「バーニング・オーシャン」だった。
「バーニング・オーシャン」は、石油採掘工事の際に安全テストを怠ったために起きた火災事故を描いていて、こちらも人災の映画だった。
ただし、「バーニング・オーシャン」は実話で、この映画はフィクションという違いはあるけれど。
トンネルの中に閉じ込められた主人公のイ・ジョンスのライフラインは、ペットボトルの水2本、バースデイケーキ一つ、充電78%の携帯電話のみ。
本来ならば、真っ先にこのトンネルを建設した建築会社と設計会社が呼ばれて、このトンネルを最もよく知る者たちで、最も早い救出方法を探るべきなのに、彼らが全く登場しないのがとても不思議だった。
それは、韓国では当たり前のことなのか。
その分、彼の帰りを待つ妻、なんとか救い出そうと思う救助隊、何も有益なことをしようとしない政府、衝撃映像を待ち構えるハイエナのようなマスコミの姿などの描写に重点が置かれ、政府の無能さが浮き彫りにされる。
ということは、事故の責任は建設会社よりも、政府にあるということなのか。
それとも、建設会社は政府の庇護の元、責任を問われないということなのか…。
その辺に韓国の社会事情が見えるような気がした。

「つつましく」「腰低く」が求められる極東アジアの女性たち
そんな中、私が最もグッと来たのは、ペ・ドゥナ演じる主人公の妻セヒョンだった。
この事故で最も悲惨な目に遭っている被害者はイ・ジョンスである。
セヒョンは被害者の妻である。
にも関わらず、もっとも申し訳なさそうにしているのがセヒョンである。
救助隊のメンバーたちに頭を下げ、彼らのために食事の準備をする。
夫が帰ってくるまで、文句も言わずおとなしく待っている。
そんな彼女の姿に胸が締め付けられたし、彼女を見ているだけで泣けて仕方がなかった。
同じ極東アジアで暮らす民族の日本人からしたら、そんなセヒョンの「申し訳なさそうな態度」も普通に見えてしまうかもしれない。
しかし、彼女は被害者である。
なぜ被害者の彼女がそこまで卑屈にならなければいけないのか。
前述した「バーニング・オーシャン」では、ケイト・ハドソンが主人公の妻を演じていたが、まるで違う。
ケイト・ハドソンは思いつく限り手あたり次第電話をかけ、夫が無事かどうなのかをひたすら確認し続ける。
そして、帰ってきた夫と水入らずで過ごすためのホテルまで用意されていた。
セヒョンはもっと声を大に訴えても良かったし、マスコミを利用して作業を急がせることだってできたはずだ。
しかし、そうではない「つつましい妻」の描き方に、極東アジアの国々が期待する「妻として女性像」を見た気がした。

セウォル号から浮かび上がる韓国「安全対策」への不安
そして、この映画を観ていて嫌でも思い出したのが、2014年4月に起きたセウォル号沈没事故である。
なぜならば、セウォル号沈没事故も利益重視で規定を大幅に上回る過積載をしたために起きた人災だったからだ。
その後、造船会社や運航会社だけでなく、救助が遅れたことや国の対応が問題視され、そこから朴槿恵元大統領の失墜が始まっていった。
さらに、それからしばらく手抜き工事が原因と思われる道路の陥没や電車の衝突事故などが続き、韓国の安全対策の在り方が問われるようになる。
その中で制作されたこの映画「トンネル 闇に鎖(とざ)された男」があの事故と無関係なはずがない。
例えば救助隊。
主人公、イ・ジョンスの通報で駆け付けたは良かったが、彼を救出するのに一ヶ月という果てしない日数がかかっている。
しかも、途中で諦めようとしている。
これはちょっと日本では考えられない。
日本だったら現場の救助隊が自衛隊の応援を要請し、遅くとも2~3日で救助できたはずだ。
これが韓国の救助隊の「遅さ」を表し、その結果、助かるはずの人が亡くなってしまう。
さらに、埋まっているはずのボルトがなかったり、7基あるはずの送風機が6基しかないという手抜き工事も発覚。
これが「韓国の公共事業の実態」なのだ。
これは「もしもトンネル崩落事故が起きたら」というシミュレーションの映画であるが、公共工事のずさんさと、救助作業の遅さにより、助かるはずの人が助からないことを暗示している。

政治家が必要とされるのは支持率をアップさせる演技力
もちろん、被害者を増やす要因は公共工事のずさんさや救助隊の遅さだけではない。
この映画の中で、キム・ヘスク演じる大臣は、無能な政府の象徴として登場する。
彼女は救助隊に対して「早く救助しろ」というだけで、具体的な対策は何一つ出さない。
ただ沈痛な表情を見せながらマスコミの前に登場し、「悲しんでいる大臣」を演じきる。
決して大声でしゃべろうとせず、言いたいことは周りにいる役人たちにささやくのみである。
「沈痛な表情を演じきり、マスコミの前で余計な言葉を発しない」という彼女のマスコミ対策は完璧である。
しかし、大臣が来るというだけで現場の人たちの手が止まるのなら、彼女の存在はハッキリ言って無駄である。
それもそのはず、彼女はマスコミの前で支持率アップのための演技をするためだけに現場に登場するのである。
そして、現場では一刻も早く救出が待たれる人がいるというのに、大臣出席の元、意味のない「現状報告のみの会議」が開かれる。
一体、それは誰のための会議なのだろうか。
生きている人がトンネルの中に埋まっているというのに。
利益重視のために手抜きの公共工事が行われ、救助隊の作業は遅々として進まず、政府は支持率アップのための演出に必死になっている。
それこそが、韓国社会の機能していない「安全対策」メカニズムなのである。
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