1971年のアメリカで「ベトナム戦争に勝ち目がない」とシンクタンクが分析した文書を当時のニクソン政権が隠ぺいし、その文書を手に入れた「ワシントン・ポスト紙」が政府の圧力がありながら掲載に向けて戦った実話を描く

【満足度 評価】:★★★★☆(4.5)
新聞社同士のスクープ合戦にハラハラドキドキし、主人公であるキャサリンの葛藤に共感した作品だった。
そして「報道の自由」とは、一体、誰のためのものなのかを改めて考えさせられた作品。
この感想には映画の結末に関わるネタバレを含みます。映画をご覧になってからお読みください。
目次
「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」予告編 動画
(原題:The Post)更新履歴
キャスト&スタッフ
出演者
〇メリル・ストリープ…(「メリー・ポピンズ リターンズ」、「マンマ・ミーア!ヒア・ウィーゴー」、「マダム・フローレンス!夢見るふたり」、「未来を花束にして」、「幸せをつかむ歌」、「イントゥ・ザ・ウッズ」、「8月の家族たち」、「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」、「ジュリー&ジュリア」、「大いなる陰謀」、「母の眠り」、「プラダを着た悪魔」など)
〇トム・ハンクス
…(「ハドソン川の奇跡」、「インフェルノ」、「ブリッジ・オブ・スパイ」、「ウォルト・ディズニーの約束」、「キャプテン・フィリップス」、「幸せの教室」、「天使と悪魔」、「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」など)
〇ボブ・オデンカーク
…(「インクレディブル・ファミリー」(声の出演)、「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」、ドラマシリーズ「ベター・コール・ソウル」、「ブレイキング・バッド」など)
〇サラ・ポールソン
〇トレイシー・レッツ
〇ブラッドリー・ウィットフォード
…(「ゲット・アウト」、「アイ・ソー・ザ・ライト」など)
〇ブルース・グリーンウッド
…(「ニュースの真相」、「白い沈黙」、「ドローン・オブ・ウォー」、「パパが遺した物語」、「エレファント・ソング」、「デビルズ・ノット」、「スター・トレック イントゥ・ダークネス」「スター・トレック」など)
〇マシュー・リス
監督
〇スティーヴン・スピルバーグ…(「BFG:ビッグ・フレンドリー・ジャイアント」、「ブリッジ・オブ・スパイ」、「リンカーン」、「マイノリティ・リポート」、「アミスタッド」、「インディ・ジョーンズ/最後の聖戦」、「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」、「レイダース/失われたアーク<聖櫃>」など)
2017年製作 アメリカ映画
あらすじ
1971年、ニクソン政権下のアメリカ。
ベトナム戦争が長期化し、反戦運動が沸き起こる中、政府が委託したシンクタンクであるランド社は「ベトナム戦争でアメリカの勝ち目なし」という調査結果報告文書「ペンタゴン・ペーパーズ」を提出するが、政府はこれを隠ぺいする。
大手新聞社 NYタイムズはこの文書の一部を極秘に入手して掲載するが、ホワイトハウスから発行差し止めの通告を受ける。
地方紙であるワシントン・ポスト紙はNYタイムズにスクープを奪われるが、独自のルートで残りの全文を手に入れる。
NYタイムズが発行差し止めを受けている中で、それをワシントン・ポストが掲載すれば独占スクープとなるのだが、「法廷侮辱罪」で訴えられる可能性もあり、編集長のベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)は、社主のキャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)に判断を仰ぐことになり…。

感想(ネタバレあり)
「強いアメリカ」のために犠牲になっていく兵士たち
現在のアメリカ トランプ政権では、大統領がTwitterや記者会見で特定の新聞社や報道局を名指しし「フェイク・ニュースだ」と非難することが度々あり、記者会見場から新聞社や報道局が締め出されるという事態も起きている。
これは明らかに、マスコミがトランプ政権から「報道の自由」を奪われているのである。
その、トランプ政権によるマスコミ締め出しと同じようなことが、今から45年以上も前のニクソン政権でも起きていた。
スピルバーグ監督は、その当時のできごとを通して「『報道の自由』とは、一体誰のためのものなのか」を現代のアメリカに訴えかけている。
これは、1970年代、冷戦時代のアメリカで起きた実話である。
1955年から始まったベトナム戦争は長期化し、1971年頃には反戦運動が巻き起こっていた。
アメリカから委託を受けたシンクタンクのランド社は、その30年も前からベトナム戦争について調査・分析を行い、「ベトナム戦争に勝ち目なし」という文書(ペンタゴン・ペーパーズ)をアメリカ国務省(通称:ペンタゴン)に提出していた。
しかし、アメリカの歴代大統領はそのペンタゴン・ペーパーズの存在を知りながら隠ぺいしてきた。
なぜ、隠ぺいしたのか。
「それでもベトナム戦争を続けるべき」という理由が3つあった。
1.資本主義を守るため
2.南アジアの経済発展を支援するため
3.偉大なるアメリカは負けてはいけない
という3つの理由だったのが、中でも3番目の「アメリカは負けてはいけないから」という「見栄」がその理由の大半をしめていた。
歴代の大統領たちは「アメリカは敗戦した」と認めたくないために、終戦を先送りし、延々と続けていたのだ。
これには、思わず目がテンになってしまった。
そんなソ連との意地の張り合いのために、多くの人たちがベトナムで犠牲になっていたなんて。
そのペンタゴン・ペーパーズの全文を入手したワシントン・ポスト紙は単独のスクープ記事として掲載すべきと考えるが、そこには、越えなければならない政府の圧力があった。

全文を手に入れろ!新聞社同士のスクープ合戦
現在だったら、ニュースはネットで流れてくるもので、スマートフォンさえあれば、最新のニュースをいつでもどこでも手に入れることができる。
しかし、インターネットが普及してなかった当時は、新聞のスクープ合戦が過激だった。
その「ネタの奪い合い」は、この映画の面白さの一つである。
面白かったのは、ワシントン・ポスト紙がインターンの若者をNYタイムズに走らせ「明日の一面に何を載せようとしているのか探ってこい」という指令だった。
郵便配達のフリをした若者が得てきた情報で、ワシントン・ポストは、NYタイムズがペンタゴン・ペーパーズの一部を手に入れたことを知る。
ところが、その記事があだとなり、ホワイトハウスはNYタイムズ発行の差し止めを裁判所に請求する。
ワシントン・ポスト紙としては、ライバルのNYタイムズに完全に出し抜かれたと思っていたのに、ホワイトハウスのおかげでスクープのチャンスが巡ってきたのだ。
「ペンタゴン・ペーパーズ」のような文書があるという情報を入手しながら、実際の文書はNYタイムズが先に得ていたために諦めていたのに、そのNYタイムズが発行停止。
もしも「ペンタゴン・ペーパーズ」の全文を手に入れれば、単独スクープをワシントン・ポストがものにできる!!
しかし、もしも裁判所が「発行差し止めを棄却」すれば、NYタイムズはすぐに掲載するだろう。
だから、ワシントン・ポスト紙がその千載一遇のチャンスをものにできるまでの時間は限られていた。
なんとしてでも、早急に全文を手に入れたいワシントン・ポスト紙は、記者の一人であるベン(a.k.a ソウル・グッドマン(ボブ・オデンカーク))が、かつてシンクタンクのランド社で働いていたことから、そのつてをたどって文書の全文を手に入れるのである。
この、実話なのにまるでドラマのような展開には、私もワクワクドキドキ、胸を躍らせながら観ていた。
しかし、「全文を手に入れたからこれで安泰」というわけではなかった。
NYタイムズが「発行差し止め」を請求された記事を、ワシントン・ポスト紙が掲載するということは「法廷侮辱罪」に当たるという。
そのため、弁護士たちは全力で記事の掲載を阻止しようとし、その決断は会長の判断に任された。

アメリカ新聞社史上初の女性発行人の葛藤
反政府的な記事の掲載を反対したのは弁護士だけではなかった。
その当時、ワシントン・ポスト紙はワシントンDCの地方紙でありながら株式を公開したばかりだった。
そこで、政府を批判するするような記事をの載せれば、株の評価が下がりかねない…。
そう思った取締役たちは記事の掲載を反対する。
そのとき、社長になったばかりのキャサリンは、アメリカでは新聞社史上初の女性発行人だった。
元はと言えば、キャサリンの父が買収した新聞社だった。
父の死後は、キャサリンの夫が受け継ぐが、その夫が急死してしまう。
しかも、その夫は自殺で亡くなったと伝えられている。
(参考:Wikipedia ワシントン・ポスト)
それまで「子供を育てることに幸せを見出していた」ような主婦だったキャサリンが、夫が突然いなくなったことで、社長になり「もしかしたら廃刊にまで追い込むかもしれない」ような決断を迫られる。
「このとき、キャサリンの胸の内はどんなだったのだろうか」と思った。
確かに、読者が激減し、株主が離れていく事態になるかもしれないけれど、「もしも、目の前に国民に知らせるべき記事があったら、父や夫だったら、どうするか」と思ったのではないか。
キャサリンは編集長のベンと話をするとき、父と夫の思い出話が多かった。
そして、いつも夫の最後の日を思い出すと語っている。
それは、彼女が悩んだ時に頼りにしたのは彼らの言葉だったからではないのか。
夫から息子へと社長業を引き継ぐ間のつなぎの社長として、キャサリンは存在していたのかもしれないけれど、だからといって、父と夫が作り上げた現在のワシントン・ポスト紙のカラーを変えてはいけない。
読者と株主を失っても、「ワシントン・ポスト紙らしさ」を失ってはいけないとキャサリンは考え、結論を出したのではと思った。
私は、そのキャサリンの「掲載するかしないかの葛藤」にとても共感した。
もう彼女は新聞社のお嬢さんでも、奥さんでもなく、社長であり「方向性の決断」を迫られている。
そして、決断をくだした後は、腹をくくり、一切の抗議を受け付けない姿が凛として、とてもかっこよかった。
その瞬間、彼女はワシントン・ポスト紙の「お飾りではない」事実上の社長になったのである。
この映画では、それまで素人だったキャサリンを主役にしたことで、「素人の目線」で物語が語られているので、当時の政治を知らなくても楽しめるエンターテインメント作品になった。
誰が見ても理解できるし、自然と「報道の自由」について考える作品になっている。
その辺りの「見せるうまさ」がこの映画のスピルバーグ監督らしさなのだと思った。

「報道の自由」とは国民のためにあり、統治者のためのものではない
そうして、ワシントン・ポスト紙はトップページに「ペンタゴン・ペーパーズ」の存在をスクープし、その後、他社もワシントン・ポスト紙に追随する記事を掲載。
「政府によるペンタゴン・ペーパーズの隠ぺい」は社会問題へと発展する。
けれど、ワシントン・ポスト紙はNYタイムズと共に「ペンタゴン・ペーパーズ」の掲載差し止めの件で、裁判所に呼び出される。
そして「勝訴」を勝ち取る。
その時の判決の理由が感動的だった。
「「報道の自由」とは、報道を守るために作成されたものであり、国民に付与するものである。統治者に付与するものではない」
たとえ、国の統治者が報道を差し止めようとも、報道の自由によって守られ、国民には知る権利があるのである。
だから、たとえトランプ大統領が「フェイク・ニュースだ」と言って、マスコミを締め出そうとしても、マスコミには報道の自由があり、国民はその報道を見たり読んだりする権利があるのだ。
ワシントン・ポスト紙はこの報道によって注目を浴びた直後、「ウォーターゲート事件」でスクープ記事を書き、再び注目を浴びるが、「反体制的な新聞」として政府と対立するようになる。
今後、株式に上場したばかりの地方紙が世界を変えることになるである。
それは、キャサリンが父と夫から教えられたことを忠実に守り、彼らが信じて編成した編集部を彼女も同じく信じたことから生まれたスクープだったように思う。
たとえ政府に嫌われても、拒絶されても「伝えるべきこと」があり、それが世界を変えるのだと改めて思った作品だった。
そして、この後、ワシントン・ポスト紙は「ウォーターゲート事件」でスクープ報道をする。
この映画も、民主党本部に何者かが盗聴器を仕掛けている場面で終了している。
ワシントンDCのFBI本部にいるディープスロートは、この「ペンタゴン・ペーパーズ」の件を見てワシントン・ポストを選んだのだろう。
この「ペンタゴン・ペーパーズ」が持ち込まれた時は、株主が離れるとか、読者が減ると心配されたのがだが、実際は勇気を持ってスクープ報道をしたことで、次のスクープが舞い込んできたのだ。
その成功は「どんな圧力にも屈してはいけない」という「報道があるべき姿勢」を私たちに教えてくれる。
★Twitterでも映画や海外ドラマの情報を発信しています~
toe@とにかく映画が好きなんです@pharmacy_toe
「ペンタゴン・ペーパーズ」の試写会に行ってきた
2018/02/27 21:57:54
『報道の自由』のために戦う地方紙の社主、編集長、記者たちの姿に感動し、その「『報道の自由』とは、一体誰のためのものなのか」について考えさせられる作品だった
あくまでも主役は新聞で政… https://t.co/pR5lWL52TR
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